研究領域(令和7年度採択)

情報セキュリティ分野
領域名 情報セキュリティ経済学によるセキュリティ向上の研究
領域代表者小松文子(ノートルダム清心女子大学 情報デザイン学部 教授)
研究構想

AI技術の急速な進展とともに変化し続けている情報社会を信頼ある社会システムとして支える情報セキュリティの実現は、あらゆる関与者が対応すべき課題である。

いくつかの調査は、企業や組織では、情報セキュリティに対しての投資を躊躇する状況を示している。例えば、IPA(情報処理推進機構)の中小企業を対象とした調査では、約6割の企業は情報セキュリティ対策投資をしておらず、その上位3位までの理由は必要性を感じない、費用対効果が見えない、コストがかかりすぎる、であった。また警察庁が毎年継続する調査からも、情報セキュリティ投資への企業・組織の消極的な状況が明らかになっている。従来から公的機関の介入や、対策実施の必要性についての周知が実施されているが、これらの調査結果から見る限り、効果が十分とは言い難い。

そこで、経済学をはじめとする社会科学の接近によって情報セキュリティの諸状況を分析し課題解決を図ることを試みる。これは、情報セキュリティが技術のみで実現されないという点で有効な手段と言える。情報セキュリティエコノミクスと呼ばれるこの分野は、2001年頃提唱され、海外で一定の評価がされ研究されてきた。経済学を含めた社会科学的観点から情報セキュリティの諸状況を分析・予見し、対策推進を目的とするものである。情報の非対称性や外部不経済の存在による市場の失敗へのメカニズムデザイン、適切なリスク分析による最適な投資額の設定、関与者のインセンティブ設計、人・組織の行動原理を分析した対策推進など、経済学を含む広く社会科学の知見や接近からの研究である。過去の研究例は、WEIS(Workshop on Economics of Information Security)やSTAST(Sociotechnical Aspects in Security)の発表論文から見つけることができる。これらは、企業や社会システムにおける情報セキュリティリスク分析を人、技術、経済の観点から統合的に実施する手法の解明に役立つ。

本領域では、情報セキュリティ経済学によるセキュリティ向上の提案を募集する。提案には、経済学など社会科学領域の専門家の関与と、理論だけでなく実際の状況解析を含む、すなわち新機軸/萌芽的、異分野融合的、実践的であることが望ましい。また、今回の研究助成を通して、国内での情報セキュリティ経済学の認知度を高め、研究領域として確立されることを期待する。

選考員 小松文子(ノートルダム清心女子大学 情報デザイン学部 教授)
石黒正揮(三菱総合研究所 サイバーセキュリティ戦略グループ 特命リーダー、主席専門部長)
大木榮二郎(工学院大学 名誉教授)
実施課題
  • 早期対策を促進するための情報セキュリティ最適投資モデルとその応用に関する研究
    (東京大学 松浦幹太 教授)
  • 情報セキュリティ経済学を用いたインシデントの被害規模推定手法の研究
    (芝浦工業大学 持永大 准教授)
  • セキュリティ課題への対応と解決に向けたセキュリティ・エコノミクスの挑戦
    (城西大学 竹村敏彦 教授)
  • LLM とXAI 連携によるSBOM 活用:行動変容を促すセキュリティ情報と意思決定支援
    (東洋大学 満永拓邦 准教授)