領域代表者
藤垣 裕子 先生

東京大学 大学院 総合文化研究科 広域科学専攻
広域システム科学系
教授

 

近年の最先端科学技術のめざましい発達により、それらが社会に埋め込まれたときに何等かの社会的・倫理的・法的課題が発生する事態が多く発生している。たとえば、急速に発展した生命科学では、CRISPR-Cas9 という技術の普及によって遺伝子操作の精度が上がり、ある病気に特化した遺伝子を操作することによって病気を治すことが可能になりつつある。それにとどまらず、たとえば頭のよい人間、速く走ることのできる人間をつくる研究もおこなわれる可能性もある。そのような最先端技術を社会としてどのようにコントロールするかについては、市民に開かれた議論が必要と言われている。

また、最近の機械学習系人工知能の発達は、囲碁や将棋におけるプロとの対戦報告などでメディアをにぎわせているが、人工知能やロボットによって人間の仕事の代替が行われ職が奪われるとする報道や、与えられた目的と枠組みの範囲内とはいえ自ら学習する人工知能が組み込まれたシステムにおいて、システムが人間の意図しない動作をして人間のコントロールを越えてしまう懸念などが表明されている。学会での倫理指針の策定や国際標準の議論も盛んであり、人工知能をどうコントロールしていくかが話題となっている。あるいは、ドローンなどの無人飛行技術と人工知能を組み込んだ遠隔操作技術を組み合わせれば、火山灰や火山性の有毒ガスが多く人間が簡単には入れない無人島にドローンを飛ばし、島の形や等高線を遠隔にいながら把握することができる。しかし同時に、無人飛行技術と遠隔操作技術の組み合わせは、民生用以外の用途にも開けており、倫理的側面の議論が不可欠である。

以上のように、最先端科学技術の社会的・倫理的・法的側面の研究の必要性は高く、かつ多方面にわたっている。本領域では、このような問題意識を共有した上で日本の当該領域を切り開くような意欲的な研究を採択した。