研究領域(令和5年度採択)
防災分野
領域名 | 地震レジリエント研究 |
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領域代表者 | 金田義行(香川大 特任教授/地域強靭化研究センター長) |
研究構想 | 日本は世界でも有数の地震国であり、1995年阪神・淡路大震災、2011年東日本大震災、2016年熊本地震など枚挙に暇がない。そのような中、1596年の中央構造線に沿った慶長大地震の連動発生や、直近の2023年2月におけるトゥルキエ(旧トルコ)南部(シリア国境近傍)でM7.8、M7.5の大地震が連動発生し、多数の脆弱な建屋が崩壊し5万人以上の人々が犠牲になるなど、連動発生地震への対応が不可欠である。 これまで、地震研究、特に地震予知研究は長きにわたり国が主導して行ってきたが、経済活動を停止するような精度で予知情報を出すことは現在の科学技術では不可能と評価された。そのため近年運用が開始された北海道・三陸沖後発地震情報はピンポイントの地震予測ではなく、推移予測を主眼に置いた事前予測情報である。南海トラフ巨大地震の場合、紀伊半島や四国の南部地域では複数の強い揺れに見舞われるリスクが高く、後発地震の発生リスクとその場合の被害推定研究は、被害軽減のために特に重要である。また、過去の大地震においても、地震被害に加えて同時期に発生した風水害による被害拡大・複雑化と復旧の長期化という問題があった。したがって、風水害のリスクがある状態で地震が発生した場合には、推移予測と被害推定を準リアルタイムに行い、後発地震に関する情報を適時に被災地に提供し、避難や救助に役立てることが一段と重要となる。 これまでの地震研究においては、理工学的研究分野ならびに社会科学的研究分野それぞれで研究開発が実施されてきた。しかし、被害軽減を実現するためには、分野の境界領域にこそ解決すべき問題が残されていることが多く、地震研究においても分野間の連携がますます重要であることは、論を俟たない。 本領域では、既往地震研究分野と一部重複する内容、例えば再来が危惧される南海トラフ巨大地震の半割れケースなど、大地震の連動発生を対象として、後発地震に対する地震推移予測や被害推定に関する研究などはあるものの、これまでの地震研究の考え方に捉われずに、先端シミュレーションやAI・ビッグデータを用いたデータサイエンスを駆使する研究、海陸の観測網(Hi-netやDONET)などのリアルタイムデータを活用した研究、ならびに社会科学的地震研究として適切避難、迅速な生活再建などの提案を募集する。 南海トラフ巨大地震に関連した臨時情報は浸水域の津波避難が目的であるが、トゥルキエの大震災や熊本地震の教訓を踏まえると、本領域における研究が複数の強振動を念頭においた避難の実現ならびに迅速な生活再建への基盤形成へと繋がっていくことが重要なため、助成期間中は各助成課題が個々に研究を行うだけでなく相互交流を活発に行い、議論を深めて地震レジリエントの基盤形成を推進していく。 |
選考員 | 金田義行(香川大 特任教授/地域強靭化研究センター長) 楠 浩一(東京大学 地震研究所 教授) 桑谷 立(海洋研究開発機構 海域地震火山部門 グループリーダー) 樋口知之(中央大学 理工学部 ビジネスデータサイエンス学科 教授) 平原和朗(香川大学 四国危機管理教育・研究・地域連携推進機構 客員教授、 理化学研究所 革新知能統合研究センター 非常勤研究員) |
実施課題 |
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医工連携分野
領域名 | 生体レジリエンス:疾患からの自己回復能力を賦活化する生体医工学 |
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領域代表者 | 佐久間一郎(東京大学 大学院工学系研究科/医療福祉工学開発評価研究センター 教授/臨床生命医工学連携研究機構長) |
研究構想 | 現在、医療技術の進歩により平均寿命は延伸することは一定の水準で達成できている。しかしながら治療の結果もたらされる生体機能の低下、副作用などにより慢性疼痛や種々の合併症など生活の質(QOL)の低下を伴うという現実も存在する。一方ウェアラブルデバイス、IoT技術の進歩により、これまでの医療の診断の多くに共通する時間的に離散的なサンプリングに代わり、生体情報の日常生活中での長時間連続計測することで新たな診断情報を得て適切に介入する生体医工学技術への期待も高まっている。またこれらの進歩により睡眠・運動などの日常生活行動が疾病の増悪にどのように関連するのかといったメカニズム研究もその進展がみられる。 また心不全からの回復過程においては適切な運動負荷を伴う心臓リハビリテーションを行うことで、望ましい心臓のリモデリング(リバースリモデリング)がもたらされることや、脳卒中発症後において適切な時期に適切な強度のリハビリテーションを行うことで脳神経系ネットワークの再構築がもたらされることなどが様々な医学研究により明らかになりつつある。 生体が本来備える回復機能を高めることは、特に慢性疾患からの回復には重要であるとともに、軽度の異常状態から正常状態への復帰能力の向上による予防医療としての意義を持つ。生活環境から与えられる刺激の制御や、生体への適切な刺激(物理的刺激、化学的刺激、情報的刺激など)による治療介入を通じて生体の回復機能~レジリエンス~を強化するための学理の構築と生体計測制御技術の開発が生体医工学の発展には重要となっている。 本研究では、(1)循環器系疾患、(2)生活習慣病、(3)脳卒中後のリハビリテーション医療を対象に、その疾患の増悪・疾患からの回復メカニズム、疾患により障害された機能の修復メカニズムに関する最新の知見に基づき、疾患の増悪をもたらす生体へのストレス因子の検出技術と、生体の回復能力の向上をもたらす人工的介入技術開発により、疾病からの回復力の向上や疾病に至らない異常状態からの回復を促進する新たな生体医工学技術の研究開発をおこなう。それにより薬物投与量の削減や、侵襲性の高い介入を低減できる医療の実現に貢献することを目指す。なお研究項目には生体適合性が高い体内埋め込み型の連続計測、介入デバイスなど、リスクベネフィットバランスの観点から許容される侵襲性をもつ生体計測・介入技術開発を含む研究が含まれることも許容する。また生体の情報を収集分析し、その結果に基づき介入を与える手段としてロボット技術を応用することも視野に入れる。 研究提案は医学研究者と工学系研究者の連名での提案であり、臨床的意義づけが合理的に説明可能であることが求められる。なお合理的な仮説の設定とその検証により、本研究を通じて当該生体医工学技術の原理的な可能性を明らかにする基礎的研究も含むものとする。 |
選考員 |
佐久間一郎(東京大学 大学院 工学系研究科 教授/臨床生命医工学連携研究機構長) 小野 稔 (東京大学 大学院 医学系研究科 教授) 神保泰彦(東京大学 大学院 工学系研究科 教授) 高草木薫(旭川医科大学 医学部 教授) 松本健郎(名古屋大学 大学院 工学系研究科 教授) 守本祐司(防衛医科大学校 医学教育部 医学科 教授)(予定) |
実施課題 |
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ジェンダード・ヘルスサイエンス分野
領域名 | ジェンダード・ヘルスサイエンス研究領域の創出による多様な人々の健康向上 |
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領域代表者 | 佐々木成江(お茶の水女子大学 ジェンダード・イノベーション研究所 特任教授) |
研究構想 | よりよい健康や医療のために、研究や技術開発において性差を考慮することは不可欠である。これまでの研究や技術開発においては、男性が基準とされることが多く、さらに生理・妊娠・不妊・更年期障害はタブー視されやすいため、女性の健康は特に見過ごされがちであった。そのような中、欧米では女性の健康課題を解決するためのテクノロジーを意味するフェムテック(Female+Technologyの造語)が急速に広がっている。生体情報のセンシング技術やAIによるヘルスデータの解析技術を利用した様々な製品・サービスが開発され、その世界市場は2030年には13兆円に達すると予想されている。 日本でも女性活躍やジェンダーギャップ解消にむけて、フェムテックが拡大しつつある。しかし、安全や安心を確保するための科学的根拠の確保や海外と比較して技術面での遅れが大きな課題となっている。 本領域では、多様な人々の健康向上に向けて、性差に基づくという意味の「ジェンダード」と科学研究に基づく「ヘルスサイエンス」を掛け合わせた「ジェンダード・ヘルスサイエンス」という新しい研究領域に関する提案を募集する。「ジェンダード・ヘルスサイエンス」が貢献できる研究テーマは広いが、本領域では、特に更年期障害のように性別に関係なく生じるが性差が認められうる健康課題を対象に、①QOL(生活の質)の向上や疾患の予防・治療等の新たな戦略につながる性差を考慮した生物・医学研究、②生体情報(体温、自律神経、心拍数、発汗、睡眠状態、深部体温など)の高度なセンシング、AI/IoT/ビッグデータを活用した生体情報の解析と性差を考慮した健康状態の予測、デバイス等によるフィードバック制御を基盤とする研究、③性差に基づく科学技術の社会実装のためのELSIや科学リテラシー向上のための研究といった提案を期待する。 助成期間中は、採択された医学・生物、工学、社会科学分野の研究者たちが活発に交流することで、学際的なシナジー効果を図る。さらに、研究の社会実装を念頭に多様なステークホルダーとのオープンかつフラットな対話の場となるプラットフォームを立ち上げる。 |
選考員 | 佐々木成江(お茶の水女子大学 ジェンダード・イノベーション研究所 特任教授) 秋下雅弘(東京大学 大学院 医学系研究科 加齢医学講座 教授)(予定) 高汐一紀(慶応義塾大学 環境情報学部 教授)(予定) |
実施課題 |
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