現在研究実施中の領域(平成31年度採択)

ELSI(Ethical, Legal and Social Issue)分野
領域名 現代の科学技術の方向性と評価のあり方を探る
領域代表者小林傳司(大阪大学 COデザインセンター 教授)
研究構想

現代の科学技術は、真理の追求という古典的な価値に加え、SDGsの議論に見られるような社会的課題の解決やイノベーションを通じた経済的発展への貢献も社会から期待され、また科学技術研究者の側もそのような価値の実現を約束しようとすることが多い。さらに、研究そのものが実験室で完結するとは限らず、ビッグデータの活用のように広く社会そのものをフィールドとしたタイプのものも増えている。つまり、現代の科学技術研究は社会との頻繁かつ濃密な相互作用が伴うものになりつつある。

このような状況において、例えばiPS細胞やゲノム編集技術、あるいは情報科学技術の成果の社会実装にまつわる課題については、技術の倫理的・法的・社会的側面について、科学技術研究者が何をどのように配慮すべきかを中心に検討されることが多かった。その場合、社会実装の対象となる科学技術そのものは中立的な存在と見なされている。

しかし、AIの顔認証技術が学習データに含まれる社会的価値観を増幅している可能性が指摘されているように、科学技術そのものは中立的という立場が揺らがないだろうか?そもそも、この科学技術は我々の社会にとってどのような意味があり、将来、どのように展開されていくと考えられ、そしてそれは望ましい方向性なのだろうか?inclusiveな社会の実現といった社会的課題解決に科学技術はどのように貢献できるか?社会が必要としていて、社会から信頼され、受け入れられる科学技術とは何か、それらは誰がどのように判断すべきなのか、その判断で基礎研究・技術開発を止めることがあり得るのかといった、科学技術の「方向性や評価」に関する検討が必要となってきている。そのような科学技術を評価する際にピアレビューに加えてどのようなシステムが有効か、といった仕組みの検討も必要であろう。

本領域では、このような観点から、科学技術の方向性や評価を検討する研究提案を募集する。研究提案にあたり、科学技術研究者と社会科学研究者が組むなど、多様性のある体制、また、単なる理論構築を目的とするのではなく、将来の社会実装も念頭に置いた検討であることがより望ましい。

選考員
小林傳司(大阪大学 COデザインセンター 教授)
黒田玲子(中部大学 総合工学研究所 特任教授)
目﨑祐史(セコム(株)IS研究所 所長)
実施課題 ・胎児組織研究に伴う倫理的課題に関する学際的研究
 ―文献/実態調査と指針作成―
 (京都大学 藤田みさお 特定教授)
・AI社会における人間中心の個人情報保護政策
 (中央大学 宮下紘 准教授)
・ゲノムデザイン研究における開かれたガバナンスの再考
 (京都大学 三成寿作 特定准教授)
・AI、ゲノム編集等の先進科学技術における科学技術倫理指標の構築
 (東京大学 横山広美 教授)
実施課題の所属・肩書きは、採択時のものです。