現在研究実施中の領域(平成29年度採択)

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【先端医学分野】
領域名多階層医学プラットフォーム構築のための基盤技術開発
領域代表者桜田一洋(ソニーコンピュータサイエンス研究所 シニアリサーチャー)
共同代表者古関明彦(理化学研究所 統合生命医科学研究センター 副センター長)
研究構想  生命科学・医学では分子レベルでのミクロの原理から疾患形質というマクロの性質を説明するのに統計学的手法を用いてきた。しかし統計処理によって個体の個別性が捨象され、多因子疾患の治療において多数の患者で標準療法が効かないという問題を生じている。統計解析では個別性の捨象に加えてミクロとマクロの関係を線形の近似によって説明してきた。しかし生物は非線形システムであり線形近似は特定の条件でしか成り立たない。その結果論文の結論が再現しないという問題が増加している。
 現在の生命科学・医学の課題を克服するには生物の多様性、非線形性を反映した研究プラットフォームが必要である。本プラットフォームを確立するには実験系ならびに解析法に関する新しい基盤技術が必要である。このような技術を開発するにはこれまで軽視されてきた階層の非分離性に注目した研究を行わなければならない。例えばがんの領域であれば従来の体細胞変異仮説に変わり、組織編成フィールド理論が提唱されている。このようなミクロとマクロの中間の階層のモデル化によって多階層問題を解決できる可能性がある。
 本研究領域では実験動物、細胞モデルなどの解析を組み合わせて組織の階層から疾患をモデル化する研究提案を募集する。組織階層のモデル化においてシステムの非線形性あるいはエピジェネティックスと遺伝的な多様性が組み込まれたものが望まれる。
実施課題
  • ラマン散乱光スペクトルによる遺伝子発現予測/推定技術の開発
    (理化学研究所 渡邉朋信 チームリーダー)
  • PDLIM2欠損マウスを用いた非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の病因病態の解明
    (理化学研究所 田中貴志 チームリーダー)
  • 予防・個別医療に向けた時系列マルチモーダルデータに基づく状態遷移予測モデル構築
    (理化学研究所 川上英良 上級研究員)
  • 多階層性モデルによる肥大型心筋症のリスク予測法と新規治療法の開発
    (京都大学 吉田善紀 准教授)
【社会技術分野】
領域名人間情報・社会情報に基づく安全安心技術の社会実装
領域代表者西田佳史(産業技術総合研究所 人工知能研究センター 首席研究員)
研究構想  安全・安心を脅かす社会的課題の解決のためには、新たな科学技術の開発のみならず、その科学技術が可能とする新しい課題解決の考え方の普及や、それを受け入れ可能にする社会システムの構築が不可欠である。例えば、近年、普及が目覚ましい衝突回避のための自動ブレーキ技術であれば、基本となる環境認識技術に加え、人と人工知能の協業による衝突回避という新たな考え方の普及、自動運転技術の課題の整理などが行われている。同様の解決が、例えば、市街地の防災情報システム、高齢者や子どもなどの生活機能変化者の見守りシステム、人間のメンタル・フィジカル両面の健康支援システムなどで求められている。しかしながら、我々の生活を変化させる科学技術では、科学技術開発、新たな考え方の普及、社会システムづくりの3つの要素が相互作用しながら社会実装を進める方法論の開発はなされておらず、我々の生活の安全・安心に役立つ可能性のある技術が社会実装に至っていない現状がある。
 本領域では、具体的な安全・安心に関わる課題を設定し、科学技術開発、新たな考え方の普及、社会システムづくりの相互作業に基づく社会実装を進める研究提案を募集する。提案にあたっては、人文・社会学的観点からの課題分析や社会の構造・仕組みの面からの検討、工学的観点からの課題整理と解決に向けた各種工学的要素を統合化手法の開発、技術を現場や社会に広げていくための教育・リスクコミュニケーション手法の開発など多面的な提案が望まれる。また、研究提案にあたり、とってつけたような文理融合的体制は不要であり、多面的な取り組みが実質的に行える体制づくりが望まれる。
実施課題
  • 木造住宅の耐震センシングと残存価値評価法の研究
    (東京大学 伊藤寿浩 教授)
  • 地域共助社会を促進する人・システム協調型スケジューリングによる生活機能の再設計と社会実装
    (産業技術総合研究所 小島一浩 グループ長)
  • 水害リスクの地域学習ニーズに応える河川水位観測・洪水シミュレーション技術の統合
    (長岡技術科学大学 松田曜子 准教授)
  • 安心安全かつ自律した労働と生活を保証する「社会・労働参画寿命」の見える化と訓練法
    (横浜国立大学 島圭介 准教授)
【ELSI(Ethical, Legal and Social Issues)分野】
領域名最先端科学技術の社会的・倫理的・法的側面
領域代表者藤垣裕子(東京大学 大学院 総合文化研究科 教授)
研究構想  近年の最先端科学技術のめざましい発達により、それらが社会に埋め込まれたときに何等かの社会的・倫理的・法的課題が発生する事態が多く発生している。たとえば、急速に発展した生命科学では、CRISPR-Cas9 という技術の普及によって遺伝子操作の精度が上がり、ある病気に特化した遺伝子を操作することによって病気を治すことが可能になりつつある。それにとどまらず、たとえば頭のよい人間、速く走ることのできる人間をつくる研究もおこなわれる可能性もある。そのような最先端技術を社会としてどのようにコントロールするかについては、市民に開かれた議論が必要と言われている。
 また、最近の機械学習系人工知能の発達は、囲碁や将棋におけるプロとの対戦報告などでメディアをにぎわせているが、人工知能やロボットによって人間の仕事の代替が行われ職が奪われるとする報道や、与えられた目的と枠組みの範囲内とはいえ自ら学習する人工知能が組み込まれたシステムにおいて、システムが人間の意図しない動作をして人間のコントロールを越えてしまう懸念などが表明されている。学会での倫理指針の策定や国際標準の議論も盛んであり、人工知能をどうコントロールしていくかが話題となっている。あるいは、ドローンなどの無人飛行技術と人工知能を組み込んだ遠隔操作技術を組み合わせれば、火山灰や火山性の有毒ガスが多く人間が簡単には入れない無人島にドローンを飛ばし、島の形や等高線を遠隔にいながら把握することができる。しかし同時に、無人飛行技術と遠隔操作技術の組み合わせは、民生用以外の用途にも開けており、倫理的側面の議論が不可欠である。
 以上のように、最先端科学技術の社会的・倫理的・法的側面の研究の必要性は高く、かつ多方面にわたっている。本領域では、このような問題意識を共有した上で日本の当該領域を切り開くような意欲的な研究を募集する。
実施課題
  • ELSI概念の再構築:多様な価値観を反映した理想の社会の実現を目指したELSIの議論へ
    (東京大学 見上公一 特任講師)
  • 効率的な再生医療の提供にむけた政策課題解決のための研究
    (京都大学 八代嘉美 特定准教授)
  • ハイブリッド・メディア空間でのリアルタイム・テクノロジーアセスメント技術の開発
    (早稲田大学 田中幹人 准教授)
  • ジェネティック・シティズンシップに基づく難病患者研究参画の基盤整備に関する研究
    (明治学院大学 渡部沙織 博士後期課題)
実施課題の所属・肩書きは、採択時のものです。