開催報告

令和元年(2019年)7月4日(木)、東京・千代田区の富士ソフトアキバプラザ・アキバホールで、セコム財団設立40周年記念シンポジウム「AI社会におけるプライバシー保護の最新国際動向」が開催されました。

本シンポジウムは、セコム財団の挑戦的研究助成によって実施している「超スマート社会におけるプライバシー保護の法政策研究」(研究代表者 宮下 紘/中央大学 総合政策学部 准教授)の研究活動の普及啓発を目的として開催されたもので、法規制や法律の実務や研究に従事される方々を中心に、広く開催を事前告知し、当日は約90名の参加がありました。

挑戦的研究助成にELSI分野(最先端科学の倫理的・法的・社会的側面)を創設された黒田玲子先生(理事・選考委員)から開会の挨拶があり、シンポジウムが始まりました。そして、宮下紘先生による研究成果概要の発表【資料1】【資料2】に引き続き、2つのセッションが行われました。


開会の挨拶をする黒田玲子先生(理事・選考委員)


研究成果概要を発表する宮下紘先生(中央大)

前半のセッションでは、アメリカ、ヨーロッパ、中国、日本におけるAIによるデータ利活用の事例について紹介があり、関連する法的枠組みについて討論が行われました。

Adam Holland研究員(米国・ハーバード大学)は、アメリカにおけるAIの利活用の具体例とAIがもたらす人権への影響について基調講演を行いました。アメリカのプライバシー保護に関する個別立法や州法の動向、さらに連邦議会における法案について紹介がありました。【資料

Paula Cao氏(中国・アリババ)は、中国におけるAI政策の現状について、北京人工知能研究所が2019年5月に公表した北京AI原則について解説があり、国レベルにおけるAIガバナンスに関する諸原則について説明を行いました。中国におけるサイバーセキュリティ法の内容の紹介とともにEUのGDPRの影響についても言及がありました。【資料

Daniel Schwarz氏(ドイツ・ITB GBS)は、AIがもたらした倫理的課題について具体例を交えながら紹介しました。そして、EUにおけるAIに関する倫理ガイドラインの内容について詳細な説明が行われ、AIシステムのライフサイクルにおける留意点について指摘がありました。【資料

成原慧准教授(九州大学)は、日本におけるAIに関する枠組みの検討状況について解説を行いました。【資料

その後、成原先生が進行役となり、アメリカ、ヨーロッパ、中国におけるそれぞれの枠組みの特徴について熱い討論が行われました。


討論するパネラーの方々
(左からHolland先生、Cao氏、Schwarz氏、成原先生)

後半のセッションでは、EUにおけるGDPRの影響を中心に、ヨーロッパ、韓国、日本におけるデータ保護法制の比較検討が行われました。

Christopher Kuner教授(ベルギー・ブリュッセル自由大学)は、GDRPの1年間にわたる状況について裁判例などを紹介する基調講演を行いました。GDPRとデジタル革新との関係について、人間の尊厳に照らし,技術が人類に寄与するように設計される重要性とそれを支えるGDPRの諸規定について説明が行われました。【資料

Nohyoung Park教授(韓国・高麗大学)は、韓国におけるGDPRの影響を踏まえつつ、新たに提案されている個人情報保護法の改正審議の状況について解説を行いました。韓国がEUからの十分性認定を受ける上での課題についても言及が行われました。【資料

曽我部真裕教授(京都大学)は、日本のプライバシー権と個人情報保護法制との関係やGDPRとの比較について説明を行い,日本の法制度の課題について指摘されました。その中で、個人情報が適切に保護されることで国民の信頼を得て、利活用の促進という視点の必要性を説きました。【資料

板倉陽一郎弁護士(ひかり総合法律事務所)は、プライバシー権と個人データ保護の権利との関係、執行のあり方、国際移転とEUの十分性、判例法についてそれぞれ論点の整理を行い、報告者との討論を行いました。【資料

両セッションでは、客席フロアの参加者からも多数の質問があるなど、参加者を交えて活発な討論が行われました。


討論するパネラーの方々
(左からKuner先生、Park先生、曽我部先生、板倉先生)

最後に宮下先生による閉会の挨拶がありました。このシンポジウムでは世界の最先端の状況を学ぶことができたことや、全てのパネリストが今後を明確に示すことが難しかったからこそ、引き続き議論が必要であるなどと総括しました。また、研究者にとって新たな領域を開拓することは勇気がいることだが、様々な支援によって大きな一歩を踏み出すことができ、セコム財団関係者をはじめ多く方々へ感謝しますと謝辞が述べられました。


乾杯のご発声をする宮田満先生(選考委員)

終了後に開催された懇親会では、宮田満先生(選考委員)の乾杯のご発声により開始され、登壇者と参加者の交流も進み、意見交換が活発に行われました。

セコム財団では、今後もシンポジウムの開催など普及啓発活動を積極的に行っていきます。今後の活動にご期待下さい。


懇親会で宮下紘先生を囲んで
(左から黒田玲子先生、佐々木信行理事長、宮下紘先生、宮田満先生)


(参考) シンポジウム開催告知