京都大学 教授 戸口田淳也先生インタビュー「疾患特異的iPS細胞を用いた難治性軟骨異常増殖病態の解明と再生医療への応用」(第2回)
異なるアプローチからのブレイクスルー、ですか。先生は骨の癌の研究もされていますが、iPS細胞の研究において、どのようなプラス効果がありますか。
癌には、自分の細胞を増殖させるシステムがあります。短時間でiPS細胞を増やしたり、臓器を再生させたりするためには、このシステムの応用が不可欠です。また再生のプロセスにおいて最も懸念されるのは、細胞の増殖が暴走し、必要以上に増えた細胞が癌化することです。iPS細胞から作った細胞や臓器の癌化を防ぐためにも、再生と癌の両方の研究が重要となります。
なるほど、癌と再生は表裏一体というわけですね。話は変わりますが、セコム財団の研究助成は、この10年くらいの間に「医療・福祉」分野が、「セキュリティ」「防災」に次ぐ3本目の柱になりました。プライベートな財団として、国とは違った形でこの分野に貢献をしてくためには、どのような助成が必要でしょうか。
私が研究しているCINCA症候群とOllier病は原因となる遺伝子が分かっていますが、原因が全く分からない病気や、まだ難病と認定されていない病気もあります。iPS細胞の技術の活用によって、今後はそうした病気の解明も進むでしょう。しかし国の助成制度の枠に入らない病気や、条件に当てはまらない研究機関等は少なくありません。セコムさんの助成額は民間の一企業としては破格の額ですから、そういうところを助けていただければ、難病研究の幅は大きく広がると思います。
国の制度の隙間を埋めるような支援が求められる、ということですね。
はい。また、国は個々の研究者が各自で研究を行うのではなく、拠点となる機関と連携し、多種多様な分野が設備や技術、人材、データなどを互いに活用して研究を進めていくことを求めています。
今後、京都大学iPS細胞研究所がその拠点となり、安全性の高いiPS細胞を製作・提供していきながら、より効率よく研究成果を挙げていくためのネットワークを構築できればと考えています。
今後、京都大学iPS細胞研究所がその拠点となり、安全性の高いiPS細胞を製作・提供していきながら、より効率よく研究成果を挙げていくためのネットワークを構築できればと考えています。
チームワークで研究を進めていくためには、研究者の移動や、会議を行う際の費用も必要になりそうですが……。
研究に必要な設備等を購入する「設備備品費」と違って、移動などにかかる費用を助成してもらうことは、意外と難しいのです。これは研究者に限ったことではありません。私が担当するFOP(進行性骨化性線維異形成症)の患者さんたちは、病気のためにほとんど動くことができないにもかかわらず、東は名古屋から西は岡山まで、さまざまな地方から自費で京都まで来られています。
患者さんが希望する医師に診てもらうための交通費は、助成の対象にはなっていないのですか。
なっていません。そのため、岡山の患者さんが京都の病院で診察を受けるための交通費は、自身で負担するしかありません。どこかの病院、どこかの研究室だけではなく、日本中で研究に取り組むことの必要性は、ここにもあります。
患者さん同士が横の繋がりが作ることも、難しそうですね。

患者さんの協力がなければ、研究は進みません。科学研究への助成と併せて、患者さんサイドの支援も今後は必要になると思います。