大阪大学免疫学フロンティア研究センター 特任教授 黒崎知博先生インタビュー「インフルエンザ万能ワクチン開発」(第1回)


同じインフルエンザでもA型やB型などの種類があるから、ワクチンが効いたり効かなかったりするのですね。

 そうです。インフルエンザウイルスには「頭(Head)」と「首(Stem)」の2つの部位があり、頭の部分から私たちの細胞に侵入してきます。また、A型やB型といった種類の違いを構成しているのも、頭の部分です。そのためインフルエンザワクチンは「今年は○型が流行るだろう」という予測を立てて、頭に結合する抗体を作っています。
 その年に流行するウイルスの型が合えば良いのですが、予想が外れて異なる型のウイルスが流行したり、鳥インフルエンザなどの新型が出現した場合は、ワクチンが効かず、重症化する恐れがあります。

それでは、先生がご研究されている「インフルエンザ万能ワクチン」は、これまでのワクチンとは異なるものなのですね。

 はい。15年ほど前、大阪大学微生物研究所の奥野龍禎先生が、複数の型のインフルエンザウイルスに効果がある『C179抗体』を発見しました。その構造を解析すると、頭ではなく首の部分に結合する抗体であることがわかりました。
万能抗体の認識部位と作用点 実はインフルエンザウイルスは、頭の種類が異なっていても、首はほぼ同じ構造をしています。その理由についてはまだ明らかになっていませんが、ウイルスの増殖に必須の部分であるため、頭のように変化させることができないのだと私は考えています。

ウイルスが私たちの体に侵入しても、増えることができなければ、感染した細胞ごと殺されて処理されるということですね。

 そうです。C179抗体を体の中で作り出すためには、まず、C179抗体に結合する抗原を、人工的に作らなければいけません。そしてその抗原を、すべてのインフルエンザに効果があるワクチンとして使用できるようにします。
 そのワクチンを打てば、獲得免疫システムが働いてB細胞がC179抗体を生み出す抗体産生細胞になります。その一部はメモリーB細胞になって抗原を記憶し、どの型のインフルエンザウイルスに感染してもC179抗体を素早く産生し、ウイルスの増殖を防ぐことができるようになります。それがこの研究の目的です。

ありがとうございました。「免疫」とは、ひと言では言い表せないほど、複雑なシステムで成り立っていることがわかりました。第2回は、万能インフルエンザワクチンの開発方法について、詳しくお伺いします。