神戸大学大学院 工学研究科 機械工学専攻 深尾隆則先生インタビュー「自律型飛行船ロボットを用いた自動情報収集・提示システムの構築」(第1回)

まさに「コロンブスの卵」的な発想の転換ですね。

  ありがとうございます。そういっていただけると嬉しいですが、もうひとつクリアしなければならない壁がありました。それは横方法への制御です。ご存じのように、飛行船というのは、カニのように横方向に移動することはできない“劣駆動”のシステムしかもっていません。ですから、観測中に横方向から突風を受けてしまうと、そのまま直進させればどうしても“観測抜け”が生じてしまいます。これはどう解決するか。出口が見えず、本当に悩みました。

研究における壁にぶつかったときに、どのように対応するかが、本物の科学者かどうかの分かれ目という気がします。

  私たちの研究グループでは、地表を基準にした“通常の座標系”で航行プログラムを組んでいました。ここから抜け出せなかったのです。そこで“風座標系”へ切り替えることにしたのです。

“風座標系”とはどういうことですか。

 基準を風にもってくることで、横方向の移動が可能になるということです。わかりづらいので、別の例を挙げて説明します。たとえば、あなたが川でおぼれました。目標をさだめて岸に向かいと泳ぎだしたとします。すると、実際にたどりつく川岸は目標地点よりも、下流側になることはお分かりいただけるでしょう。
  そこで川の流れを考慮に入れて、少し上流側を目指して泳ぎだしたらどうでしょうか。そうしてはじめて目標とした地点にたどりつくことができますね。川の流れは風の流れだと置き換えれば、おわかりいただけると思います。
  風を座標とすることで、横方向への移動が可能になり、突然の突風により飛行船があおられても、目標とした場所の欠測漏れをなくすことに成功しました(左図)。

自律型飛行船ロボットの航行には、ほんとうに大変な難問がたくさんあり、それを一つひとつクリアされてきたことがよくわかりました。

  じつはこの研究を推し進める過程で、我が研究室から3名の優秀なドクターを育てることができました。これからの研究代表者というのは、自分だけが何かを為し得て名声や地位を得ていたのでは、日本の科学技術の発展は止まると思います。後進を育ててこそ、新しい未来が見えてくるのではないでしょうか。
  今回、セコム科学技術振興財団様から助成をいただき、このような“チャレンジング”な研究を進めさせてもらったことに深く感謝申し上げます。

つぎにカメラを使った自動情報収集と提示システムの構築についてお話をお伺いしたいところですが、これについては第二回目のインタビュー記事で紹介させてもらいたいと思います。本日はどうもありがとうございました。

※なお飛行船の実際の様子は以下より動画でご覧いただけます。