神戸大学大学院 工学研究科 機械工学専攻 深尾隆則先生インタビュー「自律型飛行船ロボットを用いた自動情報収集・提示システムの構築」(第1回)

研究以前の苦労が多いと

  はい。さらに「○○の部品が足りない」となると近くのホームセンターや家電量販店まで1〜2時間はかかったりしますから、屋外での実験を実行するとほんとうに大変だということが改めてわかりました。
  さらに審査員の方から「準備研究の段階で、自動着陸が実現できなければ、2年目以降の研究費は打ち切る」という宿題をいただいておりましたから(笑)、早い段階でどうしても成功させておく必要がありました。まさに綱渡り状態の連続でした。

飛行船の自動発着はどのようにして実現されたのですか

  このプロジェクトの要は、私たちのような開発者や、プロの操縦者が災害の度に現場に出向くのではなく、ある程度知識があり、操作を覚えた人なら、誰でも運用することができる飛行船ロボットを作らなければならないことです。
  実際に災害が起こったとき運用するのは、地元のレスキュー隊や自治体の災害対策員を想定していますから、それらの方々のためにもプロに頼らず「自動で離陸し、着陸する」ことを目指しました。着陸場所は、学校の校庭などを想定していますから、半径50M円内に戻ってきてくれればOKとしました。
  最終的には、研究員のひとりが組んでくれた制御アルゴリズムがうまく機能し、比較的順調に自動着陸が成功したのは嬉しい誤算でしたね。

自動発着のアルゴリズムを完成させるためには、他にもいろいろな壁があったと思うのですか…。

  はい。まず、天候です。雨になれば飛ばせないし、夜は危険ですから日中に限られます。さらに自動操縦のデータをとるために、ラジコン操縦のプロの方に来てもらう必要がありましたから、その人材を確保しなければいけませんし、費用も相当かかりました。また、屋外実験に出る前に、風洞試験や、事前の飛行シミュレーションを念入りに繰り返さなければなりませんでした。

実際に飛行船が屋外にでると、風の影響は大きな気がするのですが。

  じつは飛行船というのは単に飛ばすだけなら、皆様が思っているほど、風の影響を受けません。使用した12M級の飛行船なら、秒速10Mの風に定常的に運行可能ですし、そのなかで稀に15Mほどの突風が吹いても、多少の修正で対応できるように工夫しました。
  しかし、問題がひとつ発生しました。風向です。このプロジェクトの目的は、飛行船を自動制御するだけではありません。搭載のカメラにより、特定の被災地の状況を詳細に記録しておく必要があります。向かい風のときには、何の問題もなく飛行できましたが、追い風になると舵がきかなくなり、予定した飛行経路から大きく逸れてしまい、情報収集の欠測部分が生じてしまうのです。

舵がきかないとは、どういうことですか。

  飛行船のコントロールは、風があるほうが舵がきくのです。追い風になると、みかけ上の風がほぼゼロになりますから、かなりのスピードを出さないと舵がきかなくなるわけです。たとえていえば、誰かが立っていて、前から別の人に押されたとします。押されてもグッと踏ん張れてコントロールがききますから、倒れません。
  反対に後ろから押されるとどうでしょう。身体が不安定になり、前につんのめってしまいます。押す人は風だと考え、押される人が飛行船だと考えると、飛行船の制御がしにくいことが感覚的にお分かりいただけると思います。飛行船は前方向からの風に対しては制御が簡単なのですが、後方からの風には態勢の維持が難しいというわけです。

それはどのようにして解決されたのでしょうか。

  船首を風上に向けながら、バックの体勢で風下に航行することを思いつきました(右図)。こうすることで、風下方向に移動する際にも、飛行船がふらつかず、予定された経路からそれることがなくなりました。
  たとえば風速5Mの風が吹いていて、その風のなかで風下方向に航行するとき、船首を風上に向け1Mほどで前進するのです。5Mマイナス1Mとなり、4Mのスピードで風下側に航行できます。