神戸大学大学院 工学研究科 機械工学専攻 深尾隆則先生インタビュー「自律型飛行船ロボットを用いた自動情報収集・提示システムの構築」(第1回)

大地震のような災害が起こった直後、もっとも大切になるのは「どこで」「どのぐらいの」被害が起こったのかを正確に情報収集し、のちの対策に役立てることです。その手段はいろいろなものが模索されていますが、いまだこれといった方法は確立されていないのが現状です。神戸大学大学院の准教授深尾隆則先生は、アメリカにて最先端かつ実践的なロボティクス技術を学び、帰国後はその技術を災害時の情報収集に活用しようと、飛行船をつかっての実用化を模索されています。深尾先生に直接お話を伺いすることにしました。

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1968年生まれ。1992年京都大学工学部航空工学科卒業、1994年同大学大学院工学研究科応用システム科学専攻修士課程修了。1996年同大学院博士後期課程中退、同年助手となり、同大学大学院情報学研究科助手を経て、2004年神戸大学工学部機械工学科助教授、2007年同大学大学院工学研究科機械工学専攻准教授となり、現在に至る。この間、2001窶骭€2003年米国カーネギーメロン大学ロボティクス研究所客員研究員。ロボティクスと自動車制御などに関する研究に従事。博士(情報学)。
<研究室URL>
http://www.research.kobe-u.ac.jp/eng-complex/
http://www.research.kobe-u.ac.jp/eng-complex/ja/fukao/

まず始めに、先生のご専門分野についてお教えください。

  もともとドクター時代に、ビークルの制御やロボティクスを研究していましたが、最新の研究をしているにもかかわらず、数式を中心にしていたこともあって、企業等が理解を示してくれないことに若干の不満をいだいていました。そんなとき、カーネギーメロン大学の金出武雄先生の講演を聞く機会があり、理論だけでなく実践でロボティクス技術を推し進めておられる姿勢に共感を受け「先生の元で学ばせていただきたい」とお願いしたのがはじまりです。

カーネギーメロン大学には、どれぐらい在籍されたのですか

  ちょうど9・11のテロが終わった直後から、1年9カ月ぐらいでしょうか。アフガニスタンの上空には、偵察用に係留型飛行船が使われているという事実が示すように、金出先生が獲得を狙っておられた研究予算は、軍事的なものだったようですが、おかげで飛行船を飛ばす制御の技術を学ぶことができました。
  また帰国後は、JAXAで成層圏プラットフォームと呼ばれる、大型の飛行船を研究開発している大学の同級生や先輩などを訪ねたりして「予算さえつけば、プロジェクトを完成させることができる」という自信を深めていきました。

今回の研究テーマを選ばれた動機についてご説明ください。

  直接的には神戸大学に来たことが大きいですね。1995年の阪神淡路大震災にはじまり、2011年の東日本大震災などいま日本各地で、大地震に伴う大きな災害が起きています。このときに大切なのは、発生後最初の3日間です(左図)。3日を過ぎると極端に、被災者の救出後の生存率が低くなってしまいます。ではどのようにして、迅速に被災地の情報を把握していくべきなのか。その技術論、方法論が確立されていないと知り、それなら飛行船で何とかなるのではないかと、思い至ったというのがはじまりです。

災害時の上空からの情報把握となると、ヘリコプターを飛ばせばいいんじゃないでしょうか。

  一度でもヘリコプターの真下に立ったことがあるならおわかりかと思いますが、風や音などには、耐えがたいものがあります。電線などがあり、引っかかって落下すれば被災者を巻き込んでの二次災害を引き起こします。また、夜間に飛ばせません。
  右図をみればお分かりのように「安全性」「航続時間」「静粛性」などさまざまな側面から検証すると、ヘリコプター、固定翼機、気球などにはデメリットが多く、消去法として飛行船しかないというのが現状なのです。

飛行船による情報収集というのは、意外な気がします。

  飛行船は、ヘリウム充填済みなら、すぐに出動できます。低空に長時間、滞空しつづけることができるので、都市部での情報収集にひじょうに適しています。これまで屋外型飛行船ロボットを使った他の国での研究プロジェクトは数例ありますが、試験的な飛行しか行われておらず、また情報を把握するためのカメラなどが搭載されていないため、実用には遠く及んでいませんでした。それなら、私たちが世界をリードしていく研究をしてやろうという意気込みでスタートしたのです。

飛行船を飛ばす実験をされた上で、一番苦労されたことは何ですか。

 まず実験場の確保の問題です。万が一落下したときのことを考え、周りに住宅街など被害を及ぼす場所がないこと、また全長12mにもおよぶ飛行船を収納できる施設があること、などの諸条件をクリアできたのは、北海道の大樹町のJAXA大樹航空宇宙実験場と、鹿児島市の七ツ島場外試験場の2つしかありませんでした。さらに、神戸大学からこれらの実験場まで、10名ほどの研究員が何百キロを移動する交通費と、飛行船の機材、計測装置などの運搬費もありますから、結局、大型のバンに人と機材をすべて積み込んで、フェリーにて移動しました。これが一番安く済みましたね。