神戸大学大学院 工学研究科 機械工学専攻 深尾隆則先生インタビュー「自律型飛行船ロボットを用いた自動情報収集・提示システムの構築」(第2回)

日本は現在、地震活動期に入ってきており、早急な対策が必要とされています。とくに大切なのは、迅速な状況把握と救援活動計画の策定であり、そのためには詳細な情報を確実に自動収集するシステムの構築が求められています。神戸大学大学院の深尾隆則先生のインタビュー第2回目では、自律型飛行船ロボットに搭載した回転型ステレオカメラと3次元レーザスキャナにより被災状況の映像を取得、再構成できるシステムについてお話をお伺いしました。

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1968年生まれ。1992年京都大学工学部航空工学科卒業、1994年同大学大学院工学研究科応用システム科学専攻修士課程修了。1996年同大学院博士後期課程中退、同年助手となり、同大学大学院情報学研究科助手を経て、2004年神戸大学工学部機械工学科助教授、2007年同大学大学院工学研究科機械工学専攻准教授となり、現在に至る。この間、2001窶骭€2003年米国カーネギーメロン大学ロボティクス研究所客員研究員。ロボティクスと自動車制御などに関する研究に従事。博士(情報学)。
<研究室URL>
http://www.research.kobe-u.ac.jp/eng-complex/
http://www.research.kobe-u.ac.jp/eng-complex/ja/fukao/

前回のインタビューでは、飛行船の航行における自動制御の方法についてお話をお伺いしました。

 このプロジェクトの目的は、被災者にとって危険の少ない方法で、災害救助などに役立つ被災地の画像データを、いかにビークルに取得させることができるか、というものです。
  ヘリコプターや飛行機は、騒音や墜落により二次災害を引き起こしてしまう危険性があり、夜間は飛行できないデメリットがありました。そこで気球なども含めいろいろなビークルを比較検討した結果、飛行船が最適との答えにたどりつきました。しかし、その飛行船を手動で動かすには、プロの操縦者が必要で、災害時に一刻を争う状況で、被災地にプロの操縦者を呼び寄せるということは現実的ではありません。どうしても自動操縦を実現しておかねばならなかったのです。自動操縦さえ可能になれば、あとはいかに有益な画像データを撮影できるかという問題をクリアすればプロジェクトの目的は果たせたことになります。

ヘリコプターや飛行機を使用するデメリットはよくわかりましたが、飛行船に被災地の状況を撮影させるメリットというのは何でしょうか。

 まず最初に強調しておきたいこと。それは飛行船からの撮影は、ヘリコプターや飛行機に比べて、より低空に迫れることです。たとえば500m、1kmといった上空から飛行機で撮影すると、一度に多くの面積をとらえることができますが、映像は2次元に近いものに限定されます。はるか上空からの2次元の映像データは、いくら拡大しても被害状況を把握するのが、とても困難です。レスキュー隊や自治体の担当者が映像から被災地の状況を的確に把握するには、より低空で撮影した3次元のデータが最適なのです。
  飛行船は地上から20縲怩R0mまで接近できますから、1回あたりの撮影面積は減少します。ですが近距離からの撮影分、取得した映像はより鮮明で、かつ3次元に近いものに合成しやすくなるのです。

詳しくお教えください。

 たとえば、ある建物群に対して飛行船が進んでいくとき、セスナのように高空からカメラを下向けに固定して撮影すると、図の緑の箇所しか撮影できません。ならば「カメラを斜めに固定すれば」と思われるかもしれませんが、これでは建物の前側面だけの撮影となり、後ろ側面をとらえることはできません。
「上空で飛行船を何度も行き来させたり、旋回させればいいじゃないか」と突っ込みを入れてくる人もいますが、燃費や時間が無駄になってしまいます。これらの問題をすべてクリアするには、回転型ステレオカメラを開発する必要がありました。私の開発したものは前後60度に回転させられますから、対象の建物にたどり着くまでに前側面を、通り過ぎたあとに後ろ側面を撮影することができるのです。

なるほど。よくわかりました。ですが、ひとつ疑問に思うことがあります。その回転型ステレオカメラでは、建物の横側面の映像は、うまく撮影できるのですか。


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 まったく撮影できていないということはありませんが、正直なところ解像度があまり上がりませんでした。そこで新たなカメラを開発することにしました。「回転型ステレオカメラの発展型(仮称)」です。ステレオカメラの間に、もう一つのステレオカメラを斜めに取り付け、クルクルと回転させるのです。(右写真クリックで動画が開きます)
これにより従来の回転型カメラの弱点であった「横側面の撮影」がじつに効率的に行えるように進化しました。2台のステレオカメラは前後に60度回転させる必要がなくなり、固定しています。

これらの機材で撮影された画像は、それぞれを単一で見るのではなく、ひとつの大きな3D画像に再構成されるのですね。

 災害発生時は、時間の猶予がほとんどありません。1分でも早くレスキュー隊などの方に状況を把握してもらい、救助にかけつけてもらう必要があります。そのためにも1枚1枚の画像を大量に見てもらうのではなく、3次元で再構成し、視認しやすく、理解しやすい形で提示する必要があると思っています。
  ちなみに、複数の視点から撮影された連続画像群からの3次元再構成は、すでにコンピュータビジョンの分野で近年ひじょうに活発な研究が行われおります。これは多眼ステレオカメラと呼ばれていますが、ほとんどがシングルカメラによるものです。私の研究は二組の二眼ステレオカメラを用いているという点で、まったく異なった先進的なものなのです。