宇都宮大学大学院工学研究科 准教授 横尾昇剛先生インタビュー 「災害時・平常時に機能する都市の環境・防災情報キオスクの開発」


災害時のみでなく平常時の活用も考えられている点に、先生のご研究の幅広さを感じます。

 環境・災害情報キオスクのキーワードは『常時活用・非常時残存』です。地元の人が日頃から使い慣れているシステムであり、観光や仕事で外部から来た人にも有用なものでなければ、災害が起こったときに「とりあえず情報キオスクに行けば電源があって、状況を確認できる」と思い出して活用してもらうことはできません。そのため平常時の使用も重視しています。

昨年はこのモックアップモデルを屋外空間に設置して、デモンストレーションを行っておられますね。

 はい。東京と宇都宮で2回行いました。東京は工学院大学新宿校舎、宇都宮は宇都宮大学工学部と中心市街地の商店街沿いの2か所です。平常時および災害時を想定したダミーの情報コンテンツを流して学生や通行人に見ていただき、環境・災害情報キオスクの使い勝手や必要な情報コンテンツについてアンケートをとりました。
偶然にも宇都宮にモックアップモデルを設置した12月7日、17時18分に三陸沖を震源とする震度5弱の地震が起こりました。宇都宮近辺には被害はほぼなかったのですが、多くの人々がキオスクの前で立ち止まり、ディスプレイを見上げていたのです。災害発生時の実用性を確認することができた一方、東京のような大都市では人が集まり過ぎて二次災害を引き起こす危険性も発見しました。そこで今年はエリアワンセグを導入し、キオスクから50m離れた場所でも携帯やスマートフォンを使って最低限の文字情報が受信できるように改良を進めています。


設置しただけでなく、実際に地震が起こったことでよりリアルな課題と改善点が浮かび上がったのですね。災害時の情報提供に関して、こだわった点はありますか。

 3.11のとき、福島県や宮城県といった広域的な情報はテレビや携帯電話で断片的に流れていたのですが、自分がいるこの町や周辺地域がどうなっているのかという情報が全く入らず、苦労しました。
  そのため環境・防災情報キオスクの2台のディスプレイには、広域情報と近隣情報をそれぞれ流すようにしています。どこに避難をするべきか判断できるよう、近隣情報は各建物について安全か危険か、避難者の受け入れ可か不可か、水や非常食の備蓄の有無、電気・通信の使用が可能か否か……等々、具体的な情報を収集して公開していくつもりです。
  また今年の11月には、東京都心エリアで複数の建物が共同で行う避難訓練に参加します。そこで各建物の管理者に実際にキオスクを使っていただき「建物管理者の段階で判断して入力できる項目」「オーナーの判断が必要になる項目」など、情報の抽出・選別を詰めていく予定です。

建物情報をオープンにするには、管理者やオーナーとの綿密な調整が重要だということですね。ところで、キオスクの情報提供システムは、全部自動なのでしょうか。それとも同じエリア内にある5台のキオスクに対して1人の担当者が手動で入力をする、といった形になるのでしょうか。

 はじめは全自動化を目指していましたが、やはり無理がありました。実際に災害が発生したときは時々刻々と状況が変化する中、適切な情報を臨機応変に発信していかなければならないため、自動で行う部分と人間が対応していく部分の、両方の開発を行っています。
  加えて、この環境・防災情報キオスクが実地に導入されるときは、おそらく駅やビル、店舗等の何らかの建物にリンクする形で設置されるはずです。平常時は建物のオーナーや管理者が運営を行うことになるでしょうが、先ほど述べたように災害時は情報の共有が容易ではありません。同じエリアでバラバラの情報が出ないよう、災害情報の収集・提供のサポートや、必要に応じて管理者の代理を行うなど、各管理者を繋ぐ協議会のような組織も必要となります。

平常時・災害時の両方の活用を前提としているからこそ、システム的にも組織づくりの面でも、調整が難しくなりそうですね。話は変わりますが、このキオスクの内部は人が入れる構造になっているのですか。

 基本は無人ですが、当初は屋台やカフェ等、軽く休憩できるスペースとしての活用を考えていました。設置する場所やその近隣に何があるか、またはクライアントのニーズに応じて内部の使い方は工夫できると思います。