宇都宮大学大学院工学研究科 准教授 横尾昇剛先生インタビュー 「災害時・平常時に機能する都市の環境・防災情報キオスクの開発」
東日本大震災が起こった2011年3月11日、東京や宇都宮は直接的な被害が少なかったにも関わらず人々は混乱に陥り、多くの帰宅困難者が生まれました。その主な理由は交通機関の麻痺や停電、携帯電話の繋がりにくさなどから、人々が適切な情報を入手できなくなったことにあります。今後も大震災の発生が予想されており、同じような混乱を繰り返さないための災害対策は不可欠です。平常時はもちろん災害時にも人々に適切な情報を提供し続け、帰宅難民や災害弱者を支援する「環境・防災情報キオスク」の研究・開発を行っている宇都宮大学大学院工学研究科の横尾先生にお話をうかがいました。
「助成研究者個人ページへ」

研究室URL:http://archi.ishii.utsunomiya-u.ac.jp/env/
まずは先生のご専門と、学生時代のご研究についてお聞かせ下さい。

博士課程では地方都市における環境に配慮した都市開発計画の基礎を身に付けながら、当時の住宅都市整備公団や地域公団が進めていたリサーチパークにどのような環境配慮型のアイデアが導入されているのかを学んだり、ヒートアイランド現象の実態を確かめるために屋外空間の温度分布を調べたりしていました。各建物と、建物が集まってできた都市全体がどのような状況にあるのかを明確にし、環境に関する情報を視覚化することが私の研究テーマでした。
都市全体の省エネルギー化の研究、ということでしょうか。
そうですね。ただし全体を把握するためには、個々の状態を明らかにする必要があります。建物であればエネルギー性能とCO2排出量をベースに、室内環境の快適さや使用されている建築材料、ライフサイクル(建物の寿命)などの要素を加え、さらに既存の統計資料を用いてデータ分析等を行い、個々の建物の環境性能データを総合的に積み上げていくことで、初めて都市全体の状態が見えてくるのです。
なるほど、よく分かりました。それでは、今回の研究を始めたキッカケについてお教え下さい。
キッカケは3.11でした。あの大震災の日、会議のために東京に出てきた私自身が帰宅困難者になり、それまでの自分の研究が災害時に全く役に立たないことを痛感したのです。
今自分がいる地域には何があるのか、このまま東京にいても大丈夫なのか、情報を得ようと何回も携帯電話を使っているうちにバッテリーが切れてしまい、コンビニ等で売っている電池式携帯充電器を探しましたが、どの店舗でも売り切れていました。必要な情報が一切得られない状況に陥り、無力感と危機感に襲われました。
今自分がいる地域には何があるのか、このまま東京にいても大丈夫なのか、情報を得ようと何回も携帯電話を使っているうちにバッテリーが切れてしまい、コンビニ等で売っている電池式携帯充電器を探しましたが、どの店舗でも売り切れていました。必要な情報が一切得られない状況に陥り、無力感と危機感に襲われました。
3.11では、東京は直接的な被害こそ少なかったものの、電車が止まり、帰宅できなくなった多くの人々が混乱に陥りました。
はい。地元であれば災害時の避難場所は知っているのですが、東京ではどこに行けば一晩を安全に過ごせるのか分からず、本当に困りました。そのとき、災害時には避難所の情報や都市・建物の状態情報をリアルタイムで提供する仕組みが必要だと確信し、自分の研究分野に新たな視点を入れて、そのシステムを構築しようと決めたのです。
研究を進めていく中で、災害発生時に自治体から発信される情報は住民に対するものが主であり、土地勘がない他地域の人たちに向けて発信される情報はほとんどないということがわかりました。何度か各地域の危機管理の担当課にお話を伺う機会があったのですが、ある危機管理の担当課では3.11のとき、本当にぎりぎりの人数で人の流れを誘導していたそうです。そのため東京などの大都市で、もし大規模な災害が発生した場合は、不特定多数の人々に対して、なんらかのサポートをすることは、おそらくできないだろうとおっしゃっていました。
研究を進めていく中で、災害発生時に自治体から発信される情報は住民に対するものが主であり、土地勘がない他地域の人たちに向けて発信される情報はほとんどないということがわかりました。何度か各地域の危機管理の担当課にお話を伺う機会があったのですが、ある危機管理の担当課では3.11のとき、本当にぎりぎりの人数で人の流れを誘導していたそうです。そのため東京などの大都市で、もし大規模な災害が発生した場合は、不特定多数の人々に対して、なんらかのサポートをすることは、おそらくできないだろうとおっしゃっていました。
馴染みのない場所で被災したときこそ情報や支援が必要になるのですが、その部分の整備がまだできていないということですね。それでは先生の「環境・防災情報キオスク」について、詳しく教えて下さい。

昨年モックアップモデルを作りました。2.4m×2.0m×高さ2.7mの構造体に、太陽光発電パネル、蓄電池、発電機、2台のディスプレイ、スピーカーを設置し、通信システムは長距離無線LAN、Wi-Fiルーターを導入しています。平常時は地域のイベント情報や気象・交通情報、企業広告などを流したり、スマートフォンやEV車への給電スポットとして街の賑わい創出の一端を担います。災害発生時には速やかに災害時モードに移行し、避難所や交通運行情報等の近隣情報の発信および携帯端末などへの電力の供給を行います。