東京大学高齢社会総合研究機構 教授 辻哲夫先生インタビュー「地域における総合的な在宅医療福祉及び情報システムの導入」


たしかに、コンピュータ上の情報共有のシステムだけなら、ある程度知識のあるソフト制作会社ならどこでも作れますね。

 地区の医師会が柏プロジェクトに真剣に取り組み、普及させていくことに全面的な合意をもらうまでが一番たいへんでした。現在では、幸いにも予想以上のサポートをいただけています。

地域の医師会の本気度がプロジェクトの正否を分けたのですね

 たとえば、本プロジェクトでは、実際に多職種同士の会議の場を持ち、話し合いながら進めています。そのようなとき、医師会がリーダーシップをとってくれるので、歯科医師会にも良い影響がでます。また、さらには薬剤師会も「自分たちも本気である」と会議の席上で、方針を表明してくれました。
  あと、柏市役所が東大とともにプロジェクトの事務局をとして精力的に動いてくれたことが大きいです。

情報共有のシステム作りは、どの程度まで進んでいるのですか。

 準備研究と2年目までは、地域や医師会、市役所への協力要請など土台づくりに力をいれ、3年目に入った今年から、情報システムを動かす段階まできています。4年目にあたる来年度に完成というスケジュールで進めていますから、現在はまだ試行段階です。
 この試行中の作業グループを試行ワーキングと名付けています。それは先ほども申しましたように地域のかかりつけ医、訪問看護師、ケアマネジャー、歯科医師、薬剤師、病院の地域連携室、このような方々が一堂にあつまり、どういう情報システムの中身であれば、全員が利用しやすいのか、患者さんのためになるのかを実証的に試行しています。

下図が画面のイメージですね。

  はい。このような画面を実際に使いながら自己評価を進めています。試行ワーキングの関係者のほぼ全員にi-padが配布されており、対象者の情報(家族構成、要介護度、住宅の構造など)を、容易に打ち込めるような標準化されたフォーマットと、個別情報や連絡を打ち込む自由な連絡帳との組合せになっています。そして、新しい情報の更新があれば、限定されたメンバー全員にメールにて連絡がいきます。
  このような共通(標準化されたフォーマット)の部分と個別の部分をどのような組合せで使えるようにすれば一番よくなるのかを検証する作業も同時並行で行っているのです。

このシステムでは、医師同士のカルテのやり取りなどは可能なのですか

 病診連携の基盤になるカルテの連携とは別のシステムとして運用しています。在宅医療を行う上での、主治医と副主治医の関係というのは、主治医が忙しいときだけ副主治医がバックアップするものなので、カルテを交換したり、病状の細かいデータを副主治医が全部知る必要がないからです。バックアップに必要な事柄だけが伝えられるシステムで充分です。しかし、必要があれば簡単にカルテを貼り付けて送付できるようにしています。
  また、主治医と副主治医のやり取りが、外部に漏れるとたいへんなので、限定した関係者だけが見ることができるというセキュリティの問題もクリアしています。来年の6月ぐらいには、ある程度の形ができあがる予定です。

完成を楽しみにしています。

 私たちが直面する超高齢社会は、欧米諸国が経験したこともないレベルとスピードで進展しています。そこで悲観論などが多くでてくるのですが、自分の力でこの困難を乗り越えるんだというチャレンジ精神で取り組めば、決して解決不可能な問題ではありません。
  今回の助成研究を材料にして、産官学で活発な議論を行い、それを通して未来型のまちづくりを含めて、イノベーションにチャレンジしていけば新たなビジネスチャンスに溢れる、明るい社会がやってくると思います。

取材へのご協力、誠にありがとうございました。