東京大学高齢社会総合研究機構 教授 辻哲夫先生インタビュー「地域における総合的な在宅医療福祉及び情報システムの導入」


今回の助成研究の内容についてお教えください。

 この問題に対しては地域での成功事例が必要です。そこで、千葉県柏市を一つのモデル地区として選び、「柏プロジェクト」を立ち上げました。

なぜ柏市なのですか。

 まず、今後大きな問題となる大都市圏のベッドタウンを選定する必要がありました。都市部では昭和30年代以降に建設された団地などで、これまで経験したことのない速さで高齢化が進行していくという事情があるからです。柏市の豊四季台地区は高齢化率が40%に達しており、都市部のモデルケースとして適していたのです。

団地は、団塊の世代の方々には憧れの的でしたが、いまは子育ても終わり、定年を迎えた高齢者世帯がメインとなり、そこでの孤立が大きな問題となっています。

 その通りです。ですが、この柏プロジェクトでの取り組みを成功させることができれば、あとはそのシステムを応用して全国的な対応が可能となると思います。

柏プロジェクトの特徴とは何でしょうか。

“かかりつけ医”は地域の開業医さんです。その“かかりつけ医”が大きな負担を感じることなく、在宅医療に専念できることを目指しているのが大きな特徴でしょう。まず、“かかりつけ医”は主治医と副主治医の2人で行うという仕組みを目指します。一人の医師だけで在宅医療を行おうとしても、何かと負担が多くなってしまうので、副主治医がバックアップをするという体制を整えます(左図)。
  このような“かかりつけ医”を中心として、歯科医師、薬剤師、看護師などが連携する“医療サービス”と、居宅介護支援や訪問介護などの“介護サービス”が一体となり、患者さんに対して“シームレス”なサービスを提供しようとしているのです。

医療に携わる人と、介護に携わる人、双方のリアルな連携の仕組みができてはじめてITを使った情報共有システムが作れるというわけですね。

 はい。柏プロジェクトの根幹は、ITシステムが機能する前提として、まず医師や看護師やケアマネジャーなど、実際に医療や介護に携わる人が連携しやすい土台を作ったところにあるのです。助成研究を進める上で一番苦労したのもその点です。