東京大学高齢社会総合研究機構 教授 辻哲夫先生インタビュー「地域における総合的な在宅医療福祉及び情報システムの導入」

高齢者に関するさまざまな問題が議論されるなか、早急に対応を求められているのが「いかにして日常生活の場で、効果的な医療や介護を実現していくか」の具体的方策です。千葉県の柏市をモデルに、この問題対して精力的に取り組んでおられる辻哲夫先生(共同研究者)に、お話をお聞きしました。

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1947年生まれ。東京大学法学部卒業後、厚生省(当時)に入省。老人福祉課長、大臣官房審議官(医療保健担当、健康政策担当)、保険局長、厚生労働事務次官等を経て、2009年から東京大学高齢社会総合研究機構特任教授。著書として『医療制度改革のめざすもの』(時事通信出版局)などがある。

先生のご経歴と今回の助成研究への背景についてお教えください。

 私は、厚生労働省出身です。在職中にはさまざまな仕事に携わりましたが、大きな流れとしては“地域包括ケア”に長年取り組んできたといえます。厚生労働省の定義では「生活上の安全・安心・健康を確保するために、医療や介護のみならず、福祉サービスを含めた様々な生活支援サービスが日常生活の場(生活圏域)で適切に提供できるような地域の体制」──これが大枠の概念になります。

いま病院で死ぬ人の割合が80%程度に達していますね。

 おっしゃる通り、日本では都市部を中心として今後20年間で後期高齢者人口が倍増し、年間死亡者数が現在よりも50万人増えることが予想されます。放っておけば、都市部では病院が機能不全に陥るのは目に見えています。たとえば、体力のない高齢者が手術をして成功してもその後に介護が必要となれば自宅へ戻れないことが多くあります。病院と在宅医療・看護・介護システムが連携する地域包括ケアの仕組みがあれば、その高齢者は自分の生まれ育った地域に戻り自分らしく老い、幸せに暮らしていくことができるのです。
  ですから、自分自身が住み慣れた地域で、尊厳あるその人らしい生活を継続することができるよう“地域包括ケア”を充実させていく仕組みづくりが大切になってくるのです。

その実現のためには何が一番大切なのでしょうか。

 在宅医療を担当してくれる、かかりつけの“医師”の存在です。いくら介護の体制が整っていたとしても、やはり医療というもののバックアップ体制がないと、高齢者はその地域を離れざるを得ません。地域包括ケアの要(かなめ)は医師がどれだけ本気になってくれるかにかかっているのです。

医師の協力があってはじめて、本格的な“地域包括ケア”が実現すると。

 はい。そして医師を含めた多職種の方々の連携も大切です。“病院内”なら比較的簡単に進む連携も、医師、歯科医師、薬剤師、看護師、ケアマネジャーなど多くの職種が“病院外”で連携をとっていくというのはいろいろな制約があり、現実的には大変難しいのです。

効果的な連携はどうすれば生み出されるのでしょうか。

 ITの力を借りることが必要です(左図)。さまざまな職種の方々が、効果的に連携するには、情報システムの整備が不可欠です。ですから、今後の地域包括ケアをすすめるうえで、①医師の参画、②多職種連携の情報システムの確立、この2つを実現しなければいけない──このような思いが助成研究のスタートとなっています。