東京大学先端科学技術研究センター特任教授 田中敏明先生「高齢認知障害者のための複合感覚刺激を利用した日常生活支援注意喚起システム開発研究」


  • 杉井
    トイレや入浴の介助に関しては、プライバシーの尊重が重要ですね。

  • 田中先生
     はい。患者がある程度自分でできるとしても、転倒する可能性や急激な体調変化のおそれがある場合は、介護者はドアの前で待機して声かけを行う必要があります。とくに入浴時は、介護者は15~30分程の時間を拘束されています。

  • 杉井
    トイレにせよ入浴にせよ、ドアの前で待たれていると思うと本人はゆっくりできませんし、介護者も待っているだけの状態では集中力にムラが出てしまいます。これは本人・介護者どちらにとっても苦痛なことですね。

  • 田中先生
     私は、本人が自己の尊厳保ち自身の自立を目指すうえで、介護者はすこし離れた場所で別の作業をしていて、機械が異常を検知して警告を発した時に現場に駆けつける、という体制がベターであると考えています。そこで今注目しているのが、熱画像センサを使った見守りシステムです。機械による監視であれば常時一定レベルの精度を保つことができますし、介護者の負担も軽減されます。さらに、カメラのように姿が映るわけではないのでプライバシーも守れます。

  • 杉井
    異常を検知する精度はどれくらいですか。

  • 田中先生
     現在は96%の確率で、正常か異常かを判別できます。4%のエラーはセンサの数を増やして複数方向からの監視体制を作ることで解消できます。ただし、その場合はコストがかかります。

  • 杉井
    医療・福祉機器の普及という観点から考えると、装置に100%の正確さを求めるよりも、コストを抑えて普及させることを目指すべきではないでしょうか。介護者のサポートとして機械を導入するのであれば、介護者による目視でその4%を補えるはずです。もちろん100%の精度を望むケースもあるでしょうから、介護者や障害者が自らの状況に合ったものを選べること、つまりラインナップをそろえることが重要だと思います。それでは最後に、今後の方向性をお聞かせ下さい。

  • 田中先生
     HMDの開発は視空間の障害を認知できない人へのアプローチから始まったものですが、視野欠損等に対しては“見えていない”部分を表示させること、弱視の人に対しては倍率を上げるだけで支援機器としての役割を果たすことができます。今後はさらに本体の軽量化や画質の向上を図るとともに、機能をシンプルにして視覚障害者全般に対する幅広い発展系も視野に入れていきます。
     車いす用の複数感覚刺激による注意喚起システムは、リハビリの進行に柔軟に対応できるモジュール化を意識ながら、患者さん一人ひとりの障害に合った支援を組み立てられるオーダーメイド型のシステムを完成させ、企業とのマッチングを行い、製品化を目指します。

  • 杉井
    本日はどうもありがとうございました。