立命館大学理工学部電気電子工学科 教授 瀧口浩一先生インタビュー「光信号の符号化・暗号化/復号化技術と高セキュリティ・低消費電力な光通信の実現」(第1回)


光だけのXOR回路は、なぜ実用化されないのですか。

 非線形光学効果とは、強い制御光を物質に入れたとき、その物質を介して他の光信号の強度、位相などを変化させる現象です。このため、非線形光学効果を利用した光XOR回路では、制御光の強度に応じて信号の処理を行います。
 この方法が実用化に至っていない理由は、処理が制御光の強度に強く依存することと、光ファイバを伝わる間に、処理される光信号に雑音やゆらぎなどが加わり、理想的な処理ができないためです。実験室内では、容易に制御光、信号光を理想的な状態に設定できますが、実際の通信システムではなかなかそうはいきません。

実験室内と同じ条件と環境を、実システムで実現することは困難である、ということですか。

 そうです。私は、光のメリットである処理の速さや消費電力の低さなどを活かすために「光信号はできる限り光の領域で処理をするべきだ」と、ずっと思っていました。しかし理想を追求するだけではなく、まずは実用化して社会の役に立つものを作らなければと考え、電子回路を併用したアプローチを試みて、この形になったのです。
 実際には、光回路XORは2組必要になります。ひとつは送信側で信号の符号化に用い、もうひとつを用いて受信側で信号の復号を行います。

ここまで、何年ぐらい研究を行っていますか。

 2012年に大学に着任してから研究を始めたのですが、その年はまだ研究費が十分ではなく、原理検証を行うための基本的な実験器具しか集めることができませんでした。幸い比較的ビットレートが低くて安価な10Gbit/s用の光デバイスを揃えることができたので、10Gbit/sで基本動作の検証実験を行い、原理通りに動作することを確認しました。
 ただし10Gbit/sは電子回路でも処理できてしまう速度なので、光領域での処理を取り入れたメリットを活かすことができません。なんとか、そのメリットを生かせる40Gbit/s以上の高速信号を処理できる光XOR回路を実現したいと思っていました。そこで、安全安心社会の実現に寄与することを重要な目標に掲げるセコム科学技術振興財団の研究助成に申し込んだところ、運良く採択していただけたので、2013年度にやっと高速処理用の光デバイス類を手に入れることができました。

光通信用のデバイスは、電気通信用のデバイスよりも高価なのですね。

 はい。光通信に用いるデバイスの価格は、電気通信用のデバイスとは桁違いの高さです。セコム科学技術振興財団から研究費をいただくことができなかったら、この光XOR回路はまだ実現していなかったと思います。
 申請した当時、まだ大学に着任したばかりで何の実績もない私のアイディアを認めていただき、多額の研究費を研究者の自由な裁量で使わせていただけることに、心から感謝しています。

光通信に用いられている技術と進歩の過程について、分かりやすく教えていただき、ありがとうございました。次回は光通信を盗聴されるリスクや、光XOR回路を実用化するための課題について、お伺いしていきます。