国立情報学研究所情報社会相関研究系研究主幹・教授 曽根原登先生インタビュー「ユビキタス情報社会における高度サービスとプライバシーの両立を実現する新たな匿名化手法と漏えい防止手法の確立」
(第2回)

あとは一般の方々の関心をいかに引くか、情報を提供することへの心理的ハードルをいかに下げるか。そこを担うのが、だれもが使いたくなるような面白いソフトやサービスの提供だと…

  そうなんです。実は、セコムさんのご支援をもとにいくつかやってみたんですが、今は地産地消ということがよく言われます。情報技術の分野でも同じように地域で作って地域で活用し、地域の活性化につなげるべきだと考えました。しかし、例えば地方自治体でスマホのアプリを作れるかとなると、おそらく難しいでしょう。ましてや個人情報保護などの話が出てきたらお手上げですよね。そこで、私たちは、まずアプリを簡単に作れるソフトを作りました。ご存じのようにホームページはHTMLを使って作成することが多いですが、私たちはそれと同じようにAPIとよばれるプログラミング用のインターフェイスを作ったのです。これを使えばホームページを書くように簡単にアプリが作れます。そして昨年そのソフトを用いて日本各地の学生たちにコンテスト形式でアプリを作らせてみたのです。なお、一般の学生が様々な情報を集めるのは大変ですので、先ほど申し上げたIDデータコモンズを併せて提供し、これを共通の基盤としました。

学生たちからはどのようなアイデアが集まってきたんでしょうか?

  コンテストの告知を行ったところ、たくさんの大学や専門学校、高等学校が参加してくれたのです。この中で、私自身とてもすぐれたアイデアだなと思い優秀賞を授与したのが東北工業大学の「てんでんこ」というアプリです。

  このアプリのアイデアの元となっているのが、震災のときに話題になった「釜石の奇跡」です。釜石の子どもたちは、津波が来る前にてんでんこ(ばらばら)に逃げろと日頃から教わっていた。そこで、実際、津波の被害が少なくすんだという話です。その話にヒントを得た「てんでんこ」というソフトですが、そのコンセプトは、子どもたちが下校途中や一人でいるときにでも、自発的に逃げることにより、自分の身を自分で守れるような教育アプリを作りたいということなんです。

子どもたちが楽しく町を探索しながら災害への備えを意識づける。いわゆるハザードマップを作るためのソフトなのですね。

  被災地以外の地域では、津波に対して意識が低いとか、防災訓練があまり行われていないといった現状がありますが、それは防災訓練が楽しくないからということに起因すると思うのです。そこをこのアプリでどう解消するかというと、GPSの機能を利用して、今いる場所の近くのどこに避難場所があるかということをラリーポイント形式で学ばせようというのです。そうすると通学途中のどこにいても、自分の判断で避難場所に逃げることができるようになるし、避難場所というものが意識付けられる。もちろん小さい子たちは、スマホを持っていませんから地域のコミュニティでやることを想定しています。コミュニティの大人たちが指導して、地域みんなで取り組むという点に意義があるはずです。

オリエンテーリングみたいで子どもでも楽しめそうです。

  そうですね。避難場所オリエンテーリングですね。例えば完成したマップを学校に持ち寄ってその情報をシェアする。すると、地域の避難場所マップが完成することになります。これは、ビジネス化したいとの申し出が企業からあり、実際に作りはじめています。

先ほど、地域のコミュニティが主体となって行うことに意義があるとおっしゃいましたが、それはなぜですか?

 例えば全国のいろいろな場所で、寝たきりの人をリヤカーで運ぶ訓練なども行われているようですが、避難経路がリヤカーが通れる道幅かどうかといったことも地元の人でないとわかりません。避難ナビを作るにしても地元が作らないとダメだというのはそういう理由があるからなのです。避難情報だけではありません。観光情報、レストラン情報、ご当地B級グルメなどもやはり地域で作ることが大切だと思うのです。