東京医科歯科大学難治疾患研究所 病態細胞生物学分野 教授  清水重臣先生インタビュー「オートファジー機構を応用したスマート・エイジング対策法の開発」(第1回)


リソソームという言葉がでてきましたが、これは細胞内でどんな役割をもっているのでしょうか。

  いい質問ですね。リソソームは、オートファジーが行われるとき、細胞質内の不要物と融合し、直接、分解やリサイクルを担当する器官です。図2をご覧ください。左から、オートファジーの開始(initiation)→小胞(vesicle)の延長→成熟したオートファゴソームの形成→オートファゴソームのリソソームとの融合(fusion)→リソソームの酸性加水分解酵素(acid hydrolases)となります。これが基本的なオートファジーの段階の概念図です。

ミトコンドリアには、どんな役割があるのでしょうか。

  ミトコンドリアは細胞のなかで呼吸をしてエネルギーを作りだすのが仕事です。たとえば車はガソリンがなければ動かないように、人間もエネルギーが必要です。そのエネルギーを作るのがミトコンドリアです。
 例外的にミトコンドリアをもたない細胞もあります。
  その代表格が赤血球です。私は、赤血球で“はじめは存在していた”ミトコンドリアが取り除かれるメカニズムも突き止めました。

なぜ、赤血球からミトコンドリアが取り除かれなければならないのでしょうか。

  それは赤血球の役割を考えればわかります。赤血球は身体の隅々の細胞に、酸素を送り届けています。ミトコンドリア自体が酸素を消費してしまうと、身体に運搬されるべき酸素自体がなくなってしまうからです。これまでミトコンドリアがオートファジーによって取り除かれることはわかっていましたが、詳細な分子メカニズムは不明のままだったのです。
  ところで、ミトコンドリアは自身が含まれる細胞の死を誘導する役目をもっていることも知られています。驚くべきことに、ミトコンドリアが残っている赤血球は、細胞死が誘導されるせいで、寿命が短くなっている可能性もあるのです。これは、マウスを使った実験で示唆されています。ミトコンドリアが除去されていないマウスでは、胎児期に寿命が短い赤血球がつくられているためか、大人になっても赤血球の数が通常の7割程度しかなく、つねに貧血状態になってしまっているのです。これについては、インタビューの第2回で詳しく触れたいと思います。

つぎに、核について説明してください。

  すべての細胞に、核やミトコンドリアがあるわけではありません。原始的な細胞には、核やミトコンドリアをもたないシンプルなものがあり、これは原核細胞といいます。一般に真核細胞は原核細胞よりもおおきく、場合によっては1000倍以上になることもありますね。
  言うまでもなく、核は細胞の中心部分であり、DNAが集められた場所です。DNAは生体の設計図のようなものなのですが、その一部はRNA(リボ核酸)となり、タンパク質を作りだすのです。

タンパク質はDNAによって作られているのですか?

  わたしたちの体のすべてのものはDNAの情報をもとに作られていますので、タンパク質もそのひとつです。
  細胞内での機能を行うのは、ほとんどの場合タンパク質です。細胞を殺すように命令が入った時も、タンパク質が関わって細胞死を引き起こします。タンパク質は、細胞を生かすためのはたらきも、殺すためのはたらきもする、最も大切な構成要素なのです。

細胞内での作業をする際の「手段」になりやすいのがタンパク質ということですね。

  その通りです。一般的には食品の成分としてのタンパク質と混同されがちですが、細胞内には十万種類ほどのタンパク質が存在します。十万種類それぞれに異なる役割があるのです。
  オートファジーが起こるとき、特定のタンパク質がその誘導をおこなうので、オートファジーへの理解を深めるには、タンパク質が「鍵」になると覚えておいてください。

今回のインタビューでは、オートファジーとは何であるのか、そしてオートファジーを引き起こすのはどうやらタンパク質の働きであるということが分かってきました。次回インタビュー第2回では、これらの基礎知識を踏まえて、先生のセコム科学技術財団での研究テーマについて、詳しくお聞きしていきたいと思います。ありがとうございました。