大阪大学基礎工学部 教授 西田正吾先生インタビュー「広域災害に対応する理想的なシステムとは」


実験はどのようにされたのですか?

 本当は、実際の災害時データを用いてやりたかったのですが、うまく取得できませんでしたので、代替データとして、大阪の万博公園でのイベントを対象に、GPS機能付の携帯電話を用いて情報収集を行い、そのデータから全体状況把握がいかにうまく行えるかを検証しました。実験としては、120名の被験者を用いて、公園全体での状況を携帯電話で報告してもらい、時空間データも合わせた形で情報を整理統合し、それらをうまく地図上に提示することにより、全体の状況把握に要する時間の軽減をはかっています。

イベントの実験が、実際の災害時に適用されるというイメージがわかないのですが?

 確かに、対象は異なっていますが、大量の時空間データ付の情報から、全体状況を把握するという目的自身は共通性があり、「迅速な状況把握」という機能の検証は可能であったと考えています。いわゆる情報フィルタリングのアルゴリズムについても、イベントにおける「施設」「遊び」などのカテゴリ分けは、災害時には「火災」「土砂崩れ」などに置き換えることにより、利用可能となります。なお、どのようなシステムについても言えるのですが、利用する人がシステムをうまく使いこなせるというのも重要な要素となります。

システムを整備しただけで完全と思い込むのは危険なのですね。

 災害とは想定外の対応の連続です。時々刻々変化する緊迫した状況のなかで、正確な判断が求められます。そのため、このようなシステムを災害時にはじめて使用してもうまくいきません。平常時からシステムに慣れておくこと、また災害時を想定した訓練も必要となります。

2番目の「適切な部署への適切な支援」について教えてください

 東日本大震災においても、ゴールデンウイーク中、多くのボランティアの方が東北地方を訪れましたが、ボランティアを待ち望んでいる避難所や個人宅などはまだまだ多いのが実情だと思います。ここでは、被災者のニーズとボランティアをマッチングさせる「ボランティアコーディネート支援機能」に焦点を当てて、その支援システムを実装しました。特に重要な点は、被災者ニーズは、時々刻々変化していく点で、その時点時点で適切なマッチングをとることが必要となります。

ボランティアコーディネータがいると聞いていますが

 確かに、ボランティアコーディネイタという専門家がいて、被災者ニーズに対応してボランティアの配置を行ってきましたが、その人数が不足しているため、被災者ニーズとのマッチングが必ずしもうまくいっていないのが実情です。

ここでは、既存のSNSを使った新しい支援システムを提案されています

 今回の東日本大震災時にも、既存の通信インフラの一部が破壊されながら、SNSが大活躍したことが連日報道されました。ご存じのように、日本ではmixiが有名であり1700万人の会員がいると言われています。また最近では同期的なコミュニケーションが可能なtwitterが注目されています。これらにより即時性が高く、伝播性の強い情報発信が可能になっているという背景があるのです。
 今回の研究では、既存のSNSの情報共有機能を活用した上で、ボランティアの登録・管理機能や、被災者ニーズの登録、地図を利用してのボランティア活動状況の可視化などの機能を加えたWEBアプリケーションを実装することにしました。また、コーディネータ役1名、ボランティア役30名を設定した実験も行いました。