岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 教授 西堀正洋先生インタビュー 「予防医学的な健康状態把握のための方法確立」(第1回)

 高齢化社会である現代では、健康寿命の維持、一生を通じての社会貢献が重要な課題となっています。そのために先進国に共通する問題である生活習慣病に対し、予防医学的にどのようにして対応するかが現在問われています。しかし、生活習慣病に対する治療は対症療法が一般的であり、疾患の根本を理解するに至っているとはいえません。
 今後ますます生活習慣病のリスクが高まるなかで、体内ではどのようなメカニズムで生活習慣病が発症し、その状態を把握・予防することができるのか、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科の西堀正洋先生にお話を伺いました。

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1980年岡山大学医学部卒業、1988年同学部講師。1990年カナダ・マニトバ大学医学部マニトバ細胞生物研究所研究員、翌年同研究所客員教授を経て、1995年岡山大学大学院医歯薬学総合研究科助教授、2001年教授となり、現在に至る。
研究室URL:http://www.okayama-u.ac.jp/user/pharmaco/

まずは、先生のご研究の専門分野について教えてください。

 薬理学ですので、薬を研究するわけですが、既存の薬を研究するだけでなく、新しい治療薬を提案し、開発する「創薬」という分野も入ります。
 生体外部からの病原体の侵入などによって生じる炎症反応に注目しており、中でも免疫応答を作動させるタンパク質であるDAMPsや病原体由来のPAMPsを中心に研究しています。

対症療法的な薬ではなく、免疫応答を作動させて治す根本治療を目指されている、ということですね。なぜ、そのタンパク質に着目したのですか。

 1993年頃から、ヒトゲノムプロジェクトといって、ヒトの遺伝子を全て解読しようという活動が世界で実施されました。ゲノムは、個体がもつ全ての遺伝情報という意味です。ヒトのゲノム配列が解読されたことによってゲノムプロジェクトは終了し、次に解読したゲノムの意味を調べる「ポストゲノム」の時代が訪れました。ゲノムの意味を調べることによって、遺伝子から作られるタンパク質の機能がわかる、というものです。
 当時薬理学分野では、新薬の開発が行き詰まっていたため、私は新たな糸口として「ポストゲノムの観点から新薬を作ろう」という発想に至りました。

遺伝子から作られるタンパク質の意味を調べる、というポストゲノムの観点から、DAMPs研究を始められたのですね。その中でも、とくにHMGB1というタンパク質に焦点をあてているようですが……。

 HMGB1は遺伝子転写制御、遺伝子発現制御に関わるクロマチン構造維持、DNA修復など、核内機能に特化した機能を持つと考えられていました。
 しかし、ニューヨーク・ファインスタイン医学研究所のトレーシー教授が、従来のイメージとは全く異なる作用を発揮することを発表し、これに感銘を受けた私は、後追いの形で研究を進めることを決意しました。