慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科 教授 西宏章先生インタビュー 「ネットワークトラフィックに直接介入するサービス指向ルータにより展開される新たなスマートサービス」(第2回)

ルータの情報共有システムが、災害時の電力不足対策にも応用できるとは、驚きました。ここまでのご研究で、いちばん苦労されたことは何ですか?

 この仕組みを認知してもらうことです。
 サービス指向ルータの応用先の一つとしてエネルギー分野を選んだのですが、ルータで集めた情報を使って、ルータ上でサービスを生みだせるということを説明しても、2008年当時はなかなか理解してもらえず「ルータは配信に徹するべき」との批判もありました。
 しかし東日本大震災が起こり、世の中の認識が一変しました。ITを活用した省エネや電力の有効活用が重視されるようになり、さらに、その先のサービスの在り方が議論されるようになりました。この研究の必要性が認められるようになったのです。

先生はもともと、半導体デバイスの研究開発を行っていたと聞きました。ご研究の範囲が、かなり広くなったのではないでしょうか。

 研究内容がハードウェアやソフトウェアの使い方、インターネット通信からライフスタイルまで多岐に渡るため、説明には、今でも苦労することがあります。しかし研究範囲が広いことは強みであり、オリジナリティーでもあると思っています。

それでは最後に、これから助成申請をされる若手研究者へのメッセージと、セコム科学技術振興財団への要望などがありましたら、お願いします。

 セコム財団の研究助成金は額が大きく、利用もしやすい助成金です。しかし私は30代のころ「今の自分がこの金額の助成金に挑戦しても、おそらく選考を通らないだろう」と思って申請せずにおりました。いま振り返ると、もっと早い段階で申請をしても良かった、と思っています。採択されて分かったことですが、さまざまな専門をお持ちの審査員の皆さまが、多様な可能性を見つつ選抜してくださっているからです。若い研究者のみなさんには、良いアイデアがあれば自信を持って、どんどん挑戦してもらいたいと思っています。
 また「金額が高い助成金は審査に通りにくい」というイメージがあるため、財団の皆さまにはぜひ、若手の研究者が狙いやすいような「助成金額が少なく、助成期間が短い制度」を別途ご検討していただければと思います。さらに良い研究内容であれば、助成期間が終わっても次の段階にステップアップできるような、若手研究者の育成につながる制度を期待しています。
 

西先生の研究室では、実証実験の段階に入っているご研究や、実用化が目前のご研究がたくさんあります。現代社会が抱えるさまざまな問題、そして災害が多発する日本特有の問題を解決するカギとなることを期待しております。
 長時間のインタビューにご協力いただき、ありがとうございました。