慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科 教授 西宏章先生インタビュー 「ネットワークトラフィックに直接介入するサービス指向ルータにより展開される新たなスマートサービス」(第2回)

インターネットといえば、先生はスマートコミュニティに関するご研究もされています。

 最近、屋根にソーラーパネルを設置した「スマートハウス」をよく目にするようになりました。住人はエネルギーモニターなどによって電気消費状況をリアルタイムで確認して「使っていない電気を消す」「使いすぎている電気の節電を心がける」「余った電力を売る」ことで、エネルギーマネジメントを行います。
 このようなエネルギーマネジメントを地域規模で行うことを「スマートシティ」と呼びます。再生可能エネルギーを中心に地域で電力を生み出し、需要と供給の無駄がないようにITで制御して、省エネを実現します。この制御にサービス指向ルータが利用できると考えています。クラウドを利用するよりも、制御対象に近く、迅速に処理できるはずです。
 電力に限らず、現在はさまざまな生活インフラが「スマート化」しています。たとえば日本中の道路交通情報を5分ごとに集めて「どの道路のどの部分が渋滞しているか」という最新情報を知らせるサービスも普及しています。
 今はまだ、それぞれのスマートインフラが独立して存在している状態ですが、これを横に繋げる動きも出ています。飛行機の運航状況と、病院のカルテ情報をマッチングさせると、インフルエンザの患者がどの飛行機に乗ったかが分かり、感染経路が判明した、という例があります。同様のサービスは、今後次々と登場するでしょう。

スマート化されたインフラが連携をすれば、新しい効果やサービスを生み出すことができる、ということですね。

 そうしたサービスを開発するためにも、私の研究室ではスマートグリッドの実証実験ができる環境を用意しています。
 そのひとつが、長崎県五島市にあります。EV(電気自動車)を150台導入し、EVと観光ITS(人・道路・自動車の間で情報の受発信を行うシステム)を有機的に結び付けることで、地域主体の未来型ドライブ観光サービスを構築しました。
 プロジェクトは2014年に終了しましたが、そのインフラは今でも活用しています。たとえば、大規模災害が発生した時にEVを避難所に誘導して、非常用電源として活用するためのシステムを作っています。100kWhのバッテリーを持つEV車があれば、450人を収容している避難所で、約5日分の電力を補うことができます。

大規模災害が起こった時は、通常利用している通信インフラは、ほとんど使えなくなるのではないでしょうか。

 はい。そのために、EV同士でワイヤレス通信を行う、さらにはドローンを使って情報交換するなどの方法で、インターネットを利用せずに、災害による道路の封鎖場所などの情報を広げることを考えています。
 災害が起きる寸前に得た情報、つまり他のEVの位置やバッテリー量を考慮して、安全にどの避難所に行くべきか、到達するまでの電力消費と、想定避難所収容数を元に、最も良いと考えられる移動経路でEVを誘導するシミュレーションを行っています。