芝浦工業大学 建築学部建築学科 教授 村上公哉先生インタビュー「大災害時ターミナル周辺地区および地下街の安全安心対策としてのオフサイトセンターの実証研究」(第1回)

 東日本大震災では、首都圏で交通機関の麻痺により多数の帰宅困難者が発生し、現在その対策はエリア防災上大きな課題となっています。
 その中で、各種交通機関の駅や周辺ビルと接続している地下街は、帰宅困難者の受け入れに重要な役割を果たしました。行政では、都市再生安全確保計画制度を創設するなど、大規模地震発生時における滞在者などの安全について取り組んでいますが、地下街は国有の施設ではなく、民間施設の善意に大きく依存しているのが現状です。
 大規模地震時の帰宅困難者の受け入れ先が不足しているなか、地下街をより有効に活用するためには何が必要なのか、芝浦工業大学建築学部建築学科の村上公哉先生にお話を伺いました。

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1991年早稲田大学大学院理工学研究科にて工学博士の学位取得。同年日本学術振興会特別研究員。1993年東北化学技術短期大学講師、1995年早稲田大学理工学総合研究センター講師、1997年同センター助教授を経て、1998年芝浦工業大学工学部建築工学科助教授、2005年同大学教授、2017年同大学建築学部建築学科教授となり、現在に至る。
研究室URL:https://www.kk.shibaura-it.ac.jp/murakami-lab/

東日本大震災時、鉄道などの公共交通機関が麻痺しターミナル駅周辺は帰宅困難者であふれたそうですね。

 JRのターミナル駅周辺では多くの人々が行き場を失い、自然と人々は駅に接続する地下街へ流れていきました。 
 一つの代表例として、川崎の地下街をヒアリング調査したところ、川崎市全体の帰宅困難者は約5500人、そして当該施設の受け入れた人数は2600人でした。これは全体の約5割に相当します。帰宅困難者の受け入れにおいて、人道的観点から地下街が大きな社会的役割を担ったことがわかります。

地下街は、日頃は商業利用施設として使われていますが、一方で「いざとなったときの避難場所」としても機能したのですね。もともと地下街は避難場所としても設計されたのでしょうか。

 もともと災害時の避難場所になることを想定して設計されたわけではありません。
 1927年、浅草・上野間に地下商店街として「上野ストアー」が開店したのがはじまりで、以後、各地下鉄の設置に併せて、多くの地下街が整備されてきました。
 ショッピング以外の機能としては、地上交通の混雑緩和を目的にした地下通路、また駐車場などが挙げられます。
 阪神淡路大震災時、神戸市内には3つの地下街がありました。しかし、地震による構造物の被害はほとんどなく、天井板、柱、壁仕上げ材が落下した程度で、実質的な被害は発生しませんでした。

地下街が避難場所としての使い道を想定していないとすれば「ただ帰宅困難者が滞留するだけの場所」でしかないのでしょうか。

 構造物の被害が少ないので、屋外に滞留するよりは安全といえます。川崎の地下街では、滞在者のために夜間も照明や暖房を継続するとともに、夜には寒さ対策として段ボールを自主的に配布しました。その後、市から毛布の配布や医師・保健師などによる巡回の支援を受けていますが、このような例はまれです。
 現在川崎駅周辺では公共施設を中心に10箇所が「一時滞在施設」となっており、地下街もそのうちのひとつです。
 しかし、全ての都道府県の地下街が、一時滞在施設というわけではありません。一時滞在施設には、果たすべき様々な責務があるからです。

一時滞在施設とは何ですか。

 待機場所のない徒歩帰宅困難者が、一時的に休憩や滞在することを目的とした施設です。一時滞在施設は地下街が勝手に名乗れるわけではなく、自治体と協定を締結した施設であり、その要件には「3日間程度滞在する可能性を考慮し、水、トイレ、帰宅支援情報、その他提供など」があります。そのため、新たに一時滞在施設になるためには、場合によっては要件を満たすための施設整備が必要です。
 しかし、地下街は公共施設ではなく、ほとんどが民間の会社によって運営されており「国や自治体の支援なしでは、一時滞在施設になることは難しい」という意見が多いです。
 地下街を含め一時滞在施設の約7割が民間施設であり、民間施設の善意に大きく依存しているのが現状です。自治体の要請で帰宅困難者を受け入れても余震などの二次災害で負傷者が発生した場合は、その責任を問われる可能性があります。
 そのため、施設整備のみならず、そうしたリスクを回避できるルールや法整備が必要であることが指摘されています。

地下街が一時滞在施設となることは、法的にリスクを負うことになるのですね。

 法的なリスクはもちろんですが、それよりももっと大切な問題があります。