豊橋技術科学大学大学院工学研究科建築・都市システム学系 准教授 増田幸宏先生インタビュー「オフィスビルのBC(Building Continuity)デジタル支援装置の開発」


東日本大震災でも、ひとつの部品工場が潰れただけで、大手自動車メーカー全体の生産がストップしました

 ひとつの建物といった単位でも、小さな箇所が壊れるだけで同じようなことが起こります。建物をシステムとして把握することが重要です。建物がひとつシステムとして機能していることが重要なのです。
 建物の社会的責任、建物の財産としての価値ということを考えるときに、まずは構造体として健全であることが命に関わる問題として大変重要ですが、建物は単純な箱ではありませんので、そのことに加えて、建物が適切・正常に機能することが重要です。拠点となる建物の機能が維持されることで、はじめて業務や生活の継続が可能となります。災害時においても様々な組織や建物の機能が維持され、業務や生活が維持・継続されるということは、被災地域の社会・経済的機能や被災者の生活を守り、迅速な復旧を確実に推進していくために欠かせないものとなるからです。例えば災害対応拠点となる行政庁舎や病院に加えて、公益企業や物流業者、データセンターや金融機関、経済活動を担う企業の本社等の機能が維持されることが被災後にどれ程大きな力になるかを忘れてはならないと思っています。
このように、今後は建物機能を適切に維持する(Building Continuity)という評価の視点を広く共有することが必要です(左写真参照)。特に建物での火災や構造躯体への大きな損傷が無い状況において建物が適切・正常に機能する方向に舵取りを行うことが重要であると考えています。このことが建物を使用者が使い続けられるかどうか、建物が必要な機能・サービスを提供し社会的な役割を果たせるかどうかの分岐点となります。東日本大震災の厳しい経験を経た今、本システムの開発を通じて、社会に向けてこのことをあらためてきちんと主張をしていかなければならないと考えています。

建物の危機管理のあり方が大きく変わるということですね。

被災後にはライフラインの供給停止や設備系統への被害等、重要リソースの制約を受ける中でも、被害状況と建物使用者のニーズを正確に把握しながら適切な対応を取る危機管理のプロセスが重要となります。
 研究の過程では、阪神・淡路大震災において、建物の構造体の損傷は免れましたが、建物が使用不可となった事例の調査をしました(左図)。複合的な要因により、水、電気、エレベータといったライフラインが段階的に全て停止し、建物の機能停止にいたる被害となった事例については詳細に分析をしました。このような事例から学ぶべき教訓は、建物における重要なリソース(人、情報、もの:燃料、水、機器、配管、配線等)の計画・管理能力を徹底的に高めることの重要性です。発災後、刻々と時間が進行する中で如何に適切で正確な対応をとるかが要となります。開発したシステムでは、建物の重要情報を集約・表示させ、その情報がしかるべき人間によって活用されることで、建物利用可能度の診断や、機能不全の原因把握と機能回復策の判断による迅速な応急・復旧対応を可能にします。これからの建物管理のあり方に、ひとつの先導的な範例を示すことができたと考えています。 

研究を進められる中で、忘れられない出来事はありましたか。

 研究では、いくつかの実際の建物を対象に詳細の調査を行い、仕様の検討を進めてきました。その過程で、建物管理に携わる関係者の方や、現場の技術者の方から、こうしたシステムがあると大変助かる、このようなシステムを待ち望んでいた、というお声をいただく機会がありました。そのことが、大きな自信となりました。こうした新しいシステム開発の研究を進めていく中では、不安や、困難な時期もありましたが、現場の方のこうした応援がありましたので、確信を持って、迷うこと無く研究開発を進めることができました。大変大きな心の支えとなりました。

このシステムの導入事例はおありでしょうか。

 財団や関係者の皆様の様々な御支援と御理解を頂きまして、現在東京都心部で進んでいる複合再開発プロジェクト(都市再生プロジェクト地区)に本システムが導入されることになりました。現在、住宅を中心に地域住民コミュニティの活力ある再生と継続を意図した特徴的なまちづくりが進んでいる地域です。地区内には超高層住宅や保育園、商業施設が混在する複合的なまちが平成26年に誕生する予定です。