東北工業大学 工学部 建築学科 准教授 許雷先生インタビュー「災害時における安心・安全性向上のためのIFC活用方策研究」(第1回)


実測よりルートBのほうが短くなっていますね。

 はい。じつはそこが大きな問題で、現在の日本の法律では、部屋のなかの移動は単純に直線的な経路で時間を計算しているだけで、家具の存在を無視しています。さらに家具が倒れたり、壊れていたりしたら、避難時間が伸びるのは明白です。この結果から、家具の存在を無視して実際の避難時間を算定できないことが、お分かりいただけたかと思います。
  ただ、実測よりシミュレーション結果(FDS)のほうが長くなってしまっていますが、これはソフトの設定上にまだ改善の余地があることで避難シミュレーションの有用性を否定するものではないと思っております。

ほかにも、許先生のグループでは、火災時の避難歩行シミュレーションや、煙性状シミュレーションなど興味深い研究成果を多く上げておられますが、そちらについては研究終了後に、もう一度インタビューの機会を設けていただき、お話をお伺いできればと思います。

  ありがとうございます。ただこの場をお借りして1点だけ述べておきたいことがあります。それは私自身の反省を踏まえてのことですが、セコム科学技術振興財団に申請したときには、地震そのものの揺れと、火災を研究テーマとして設定していました。津波までは想定できていなかったのです。学者はすぐに「想定していない」と逃げる姿勢を示しますが、これはよくないと思っています。本物の学者とは、過去に過ちがあれば、きっちりと反省し、それを認めないと、つぎの研究テーマに本腰を入れて取り組めないのではと思います。

今回の大津波では、どんな波が来ても防げるといわれた堤防が多く破壊されました。

  問題は想定する高さではなく、万が一「津波が防波堤をこえた場合の回避」という視点が不足していたことではないでしょうか。このイマジネーションがあれば、今回の震災のような被害は起こらなかったと思います。
  そこで私たちの研究グループでは、大津波のような想定外の状況でも、人々の生命を守ることを第一義に据え、従来、設計の最終段階で行われるような安全・安心面での対策を、初期段階から行う建築プロセスのありかたを自治体などに提案しています。

  そのイラストを見れば、建物の形は楕円形であり、一階に開口部を作っていません。また津波の際、周辺の人々が建物上部に避難できるよう吹き抜けも設けています。
  この計画の意図するのは“防災”ではなく“減災”です。大災害は何十年に一度しか起こりませんが、建物はそこにある“存在意義”が問われてきます。そこで対象区域に住む多くの人がアメニティを享受できる開放的な場としつつ、防災と減災を両立することに成功しています。

このような計画プランの提示も、BIMによる効果なのでしょうか。

 はい。この計画には東北工業大学、建築保全センター、セコムIS研究所のほかに、3つの民間企業がチームで関わり、それぞれかなり遠くに分散しているという地理的ハンディもありました。BIMによるデータ連係ができなければ、お互いに忙しいなかでの、シミュレーションは不可能だったと思います。

最後に、これから助成を希望する研究者の方にメッセージをお願いします。

 学際的な研究をすすめてほしいと思います。セコム科学技術振興財団の申請は理科系の研究といったイメージがありますが、私の今回の研究でも避難時の心理分析などがあり社会学者、心理学者などの協力が必要でした。理系・文系といった単純な枠にとらわれない発想で、独創的な研究をすすめてもらえたらと思います。セコム科学技術振興財団はそういった申請を受け付けてくれるのではないでしょうか。

今年は準備研究を含め4年にわたる研究の最終年ですね。終わった頃に、もう一度お伺いして、今回掲載できなかった内容についてもご紹介できればと思います。どうもありがとうございました。