東京大学地震研究所災害科学系研究部門 准教授 楠浩一先生インタビュー「安全・安心のための即時耐震性能判定装置の開発」(第1回)

実際にどのように使うのか、教えて下さい。

 このセンサを2つか3つ、なるべく地面に近い場所と、建物の上階に設置します。あまり人が立ち入らない場所が理想なので、ビルの場合はパイプスペースと屋上付近、木造の住宅では床下と屋根裏などに設置しています。
 設置方法は、センサが動かないように両面テープで固定し、電源プラグをコンセントに刺すだけです。評価装置は、建物内のどこに置いても構いません。センサは電源が入ると自動的に評価装置を探して、通信を開始します。評価装置は地震が起こると、センサから送られてきた情報を元に建物の危険度を判定して、管理者にメールで通知してくれます。

評価装置には、その建物の情報をあらかじめ設定しておくのですか。

 いいえ、必要な設定は、設置したセンサの数を入力する程度です。
 このシステムはただ「置くだけ」で、地震が来たときに建物の安全性を自動で判定し、伝えてくれるのです。

安全性の可否は、どのように判断しているのですか。

 まず、地震でその建物がどれだけ揺れたのかをセンサが感知し、その情報をもとに評価装置が建物変位を算出します。そして、本震と同じレベルの余震がきたときにどれだけの変位がさらに生じるかを推定して、建築基準法の検証方法をベースに、そのとき建物が倒壊するかどうか判定をしています。

ビルと住宅、鉄筋と木造などの違いがあっても、方法は同じですか。

 同じです。センサが加速度を測定し、評価装置で測定値を2階積分して変位を算出するだけなので、どのような建物にも適用できます。
 アメリカから帰国した2008年に横浜国立大学に異動になり、早速このシステムを設置して観測を始めました。その3年後の2011年に、東日本大震災が起こりました。横浜国立大学の建物は多少の被害を受けましたが、このシステムが入っていたため、そのまま使用を続けても問題ないことがすぐに分かりました。

東日本大震災のときも、調査に行かれたのですね。そのときは、目視で判定したのですか。

 はい。阪神・淡路大震災のときよりも超高層の建物が多く、エレベーターが止まっているので階段で屋上まで上がり、1階ずつ降りながら調べたり、梁などの隠れている部材を確認するために天井を壊したりする必要があり、1日で1棟の調査が終わらないときもあったと聞いています。
 調査の結果、東北の地震で深刻な被害を受けた超高層の建物はありませんでした。もしもこのシステムを導入していれば、地震が収まってから数分後には建物の使用可否を判定できたはずです。そうなれば、二次災害の発生を防ぐことはもちろん、避難者の数を減らすこともできたでしょう。
 現在は、高層ビルのオーナーやメンテナンスを担っている会社などが、このシステムを導入してくださっています。

現在、いくつの建物に設置されているのですか。

 国内では、高層の建物が3棟、中層が10棟、低層は50棟くらいです。関東を中心に、名古屋市、広島市などの建物に設置されています。また、住宅メーカーにも協力していただいているので、日本各地の二階建て住宅にも導入されています。さらに国の非常用通信鉄塔にも設置しています。

 ありがとうございました。震災が起きた後、建物が「壊れてない」ことを明らかにすることが、とても難しく、しかし重要であることがよくわかりました。
 次回はこのシステムの内容をさらに詳しくお聞きするとともに、今後の目標や課題などについてもお伺いしていきます。