大阪大学免疫学フロンティア研究センター 特任教授 黒崎知博先生インタビュー「インフルエンザ万能ワクチン開発」(第2回)

マウスを使った実験では、C179抗体ができたのですか。

 はい。マウスの体内でC179抗体が産生され、異なるインフルエンザウイルスに反応することが確認できました。しかし抗体の量が少なく、インフルエンザの発症を抑えるには不十分でした。
 その理由は、合成ペプチドの壊れやすさです。シャーレ上の実験と異なり、動物の体内ではさまざまな物質が影響し合っています。抗原受容体にたどり着く前にペプチドが壊れてしまうなどのトラブルがあり、予想していた量の抗体が産生されなかったのです。
 ペプチドを環状にすると結合が強くなることがわかっているので、今はより壊れにくい構造にするために改良を重ねています。

その改良が完成すると、万能ワクチンは実用化に近づくのでしょうか。

 いいえ、壊れにくい人工ペプチドを作って万能ワクチンが完成したとしても、クリアしなければいけない課題はまだあります。
 実験で使うマウスは、一度もインフルエンザに感染したことがない個体ばかりです。そのため万能ワクチンを打てばB細胞はC179抗体を産生し、メモリーB細胞となって、インフルエンザウイルスに感染したときにウイルスの複製・増殖を抑えてくれます。
 しかし人間でインフルエンザの既往歴がなく、予防接種すらしたことがないという人は、ほとんどいません。すでにA型やB型のメモリーB細胞を持っているため、万能ワクチンを打ったときに正しくC179抗体が産生されるかどうか、まだ確認ができていません。今後、研究を進める中でその考察を行い、C179抗体を産生するメモリーB細胞が常に体内に存在する「ひと工夫」が求められると思っています。

現在のインフルエンザワクチンは、鳥インフルエンザや豚インフルエンザには効かないと言われていますが、この万能ワクチンは効果がありますか?

 この研究の目的は、万能ワクチンを作る「方法」の開発です。ワクチンの作り方が確立できれば、インフルエンザに限らず、ノロウイルスやエイズウイルスなど、すべての変異型ウイルスに応用できると考えています。
 また、将来はがん治療への応用も研究したいと思っています。まだエビデンスがない状態ですが、がん抗原が自己を複製・増殖させている部位を特定して人工ペプチドを作成し、がん患者にワクチンとして投与し、目的の抗体を産生するメモリーB細胞を誘導できれば、がんが治るのではないかと思っています。