東京大学 生産技術研究所 教授 川口健一先生インタビュー「真に安全安心な公共空間のための天井工法と天井の安全性評価法の開発」(第1回)
国民の安全よりも自分たちの利権を優先してしまった結果というわけですね。
そこで、発想の転換が必要となります。たとえ天井が損傷しても、落下現象をくいとめられればOKだというように、です。さらに、軽くて柔らかい天井材を積極的に用いることで、天井落下災害は限りなく少なくすることができます。耐震補強ではなく、落下減少の制御です。柔らかい天井材なら、建物が変形してもそれに合わせて形が変わりますし、壊れて落ちてくるということがありません。万が一落ちても、軽ければ人を傷つけることがありません。このような材料は、既にいろいろあります。また、今後、どんどん開発されていくことが望まれます。東京のお台場にある日本科学未来館のエントランスホールは、東日本大震災の天井落下被害を受け、速やかに軽くて柔らかい膜天井に改修しました。復興のお手本になりたい、という未来館側の熱意もあり、震災後3ヶ月で復旧しました。


なんらかの理由で膜天井にできない場合は、どうすればよいのですか。
膜天井の設置費用は、どれぐらいかかりますか。
以前、業者の人から聞いた概算値で、平米あたり約1万円程度だそうです。一般の天井板である石膏ボードを耐震補強しても大体平米あたり1万円だそうです。石膏ボードそのものは1枚数百円ですから、これを1万円近くかけて耐震補強するというのは、ナンセンスのように聞こえます。同じ金額でぜったいに安全なものを設置することができるのです。
今後はどのような方向性で研究を進めていく予定ですか。
実際に、膜天井などの設置を提案しますと「火災がおきたときは大丈夫か」という心配の声を聞いていますので、より不燃性の高い材料を開発していく必要などがあります。いずれにせよ、あくまでも利用者の立場にたって、安全安心で豊かな建築空間をともに造り上げるという態度がもっとも大切だと思っています。天井の落下という問題に対しては、設計者、施工者をはじめ建築の生産過程にたずさわるすべての関係者が謙虚な態度で、より安全で安心な空間の実現に責任感を持ってかかわっていくべきでしょう。
法令を順守すれば責任は問われないという発想ではダメだと。
はい。20世紀の高度経済成長期に建築された建物などは、作る側にとって都合のよいものだったような気がします。21世紀は、さまざまな分野において、人間中心の発想に転換していく必要があると思うのです。
最後に、今後助成を受け、研究を進めていかれる方へメッセージをお願いします。
セコム科学技術振興財団の助成は、使途について細かく規制されていないのがありがたいです。公共の研究費は極端に言うと「なぜそのボールペンが必要ですか」「なぜその紙が必要ですか」「研究費でプリンターを購入するなら、その研究内容のものしか印刷してはいけません」という具合になっている場合があります。
セコム科学技術振興財団では、研究全般をサポートしてくださるので、これが「本当の研究助成」であり、理想的な助成のあり方だと思います。これには研究者自身が元気づけられます。後進の研究者達には、このようなチャンスをぜひ有効に使ってもらいたいと思っています。
セコム科学技術振興財団では、研究全般をサポートしてくださるので、これが「本当の研究助成」であり、理想的な助成のあり方だと思います。これには研究者自身が元気づけられます。後進の研究者達には、このようなチャンスをぜひ有効に使ってもらいたいと思っています。