徳島大学大学院 ソシオテクノサイエンス研究部准教授 河田佳樹先生インタビュー「アスベスト曝露疾患の計算機支援画像診断の創出と臨床応用」


今後の研究発展としては、臨床現場での実用化や使いやすさを研究されるのでしょうか?

 焦らずに慎重にいきたいと考えています。まずは臨床現場にてシステムを検証し、システムそのものの完成度を引き上げます。つぎに、肺がん以外の病気の検出をできるようにしたいです。というのは、何度か申し上げたように、最近ではCTイメージング技術が格段に向上し、一度に肺の全領域が撮影できるようになりました。そこで怪しいと思われる部分を検出するとともにどれほどの悪いタイプであるのか、また、治療しても再発の可能性が高いのかということを予測できれば、現場の医師が常日頃から使ってみたくなると思うのです。

それは具体的にはどのようなシステムでしょうか。

 アスベスト曝露疾患だけでなく、胸部疾患全体をとらえられるシステムの構築を目指しています。これに有効なのが、低線量CTです。通常の胸部撮影での被曝量は1mSv以下といわれていますが、最新機では0・07mSvが達成されており、これは普通の健康診断で使われる単純なレントゲン撮影の被曝量とほぼ同じなのです。
  厚生労働省の発表によると、肺気腫の患者さんは約22万人で、日本人の死亡原因の10位にランクインしています。これが2030年になると世界の死因の第3位に上がってくることが予測されています。肺気腫はアスベストと似たように、自覚症状が薄いのが問題です。実際に治療をうけているのは22万人ですが、自覚症状がなくて診断をうけていない人が500万人ほどいるのではないかといわれ、今後急増化することが懸念されています。また、骨粗鬆症は今後の高齢化社会のなかで対応せざるをえない疾患です。
  肺気腫や骨粗鬆症など、アスベスト関連疾患以外の病気も含めて低線量CTによる胸部検診のなかで早くみつければ、それだけ治癒率が高い段階で治療を始めることが可能になり、ヒトがもつ本来の機能を温存したかたちの治療という選択も可能になってきます。早期発見は非常に重要なキーですので、そのようなかたちで現場の医師を診断支援システムでサポートしたいです。

図 低線量CTによる胸部検診の計算機支援画像診断システムの研究開発目標イメージ


セコム科学技術振興財団について、ご意見ご要望などをお聞かせください。

 財団からの温かいサポートに心から感謝しております。私どもの研究グループがすすめているアスベスト関連疾患や肺がん、肺気腫などを対象とした低線量CT計算機支援画像診断という研究に関してご支援していただくことで、それらの内容をさらに加速化することができました。そしてついに、今年度の末には臨床評価という段階まで来ることができました。これからも、この成果を活かして社会に貢献できるよう、ひき続き努力を続けていきたいと思います。