東京大学先端科学技術研究センター  生命知能システム分野  神崎亮平先生 光野秀文先生 インタビュー「昆虫嗅覚センサー情報処理による匂い源探索装置の開発」(第2回)

先生のご研究は、他にもおありだとお聞きしておりますが…

  おかげさまで、セコム科学技術振興財団のご援助により、センサ構築の基礎はできました。そこで、その発展型として今取り組んでいるのが「カビ臭の検出センサ」です。
  食の安全・安心にとって、カビは大敵です。カビが生えた食品や飲料から発生する臭いは消費者に不快感を与えますし、カビの生えた食品を喫食することで健康に悪影響を及ぼすことも報告されています。また、異物や異臭が食品や飲料に混入すると、会社のブランドイメージにダメージを与えるばかりか、自主回収の莫大な費用負担など、大きな損害が出てしまうことになります。このことから、カビに汚染された食品や飲料をできるだけ早く見つけ出し対策を講じる必要があります。食品や飲料に混入したカビの検出は、現状はヒトが直接匂いを嗅いで検出することが中心になっています。これをセンサを使って検出できるようになれば、より安心して消費者に商品を届けることができるでしょう。

カビ臭の原因物質にはどのようなものがありますか。

  カビ臭の原因物質は、感応閾値が低く、ごくわずかな量でも違和感を覚えるものが多いのが特徴です。また、カビ臭といわれる匂いは1種類の物質だけではなく、アルコール、テルペン、エステルなど多くの物質が組み合わさっています。一般的にカビ臭の原因物質として、2、4、6-トリクロロアニソール、ジオスミン、2-メチルイソボルネオール、1-オクテン-3-オールなどが挙げられます。昆虫にはこれらの匂い物質を検出できる嗅覚受容体があるため、センサ細胞を利用したカビ臭検出センサが構築可能になると考えています。

カビは人間にとって、マイナスに働くだけでなく、プラスに働く場合もありますね。

  カビはわれわれ人間に害を与えるばかりではありません。抗生物質として知られるペニシリンはアオカビの分泌物により抽出されますし、梅毒、淋病、破傷風などの感染症の特効薬として用いられています。また、酒造りには欠かせない働きをしてくれますし、チーズ・かつおぶしの熟成など多方面に利用されています。これらを作るとき、多くは職人の勘に頼っているのが現状だと思いますが、そこに客観的な数値が付加できれば、より厳密なものづくりが可能になるかも知れません。

最後に財団へのメッセージをお願いします。

  学問には、どの研究者もトライしていないフロンティアが、いまだ数多く残されています。ですから、これから助成申請を目指す研究者の方々に申し上げたいのは、失敗を怖れず、先駆的な研究にどんどんチャレンジしていただきたいということです。せっかくしっかりとしたサポートを約束していただけるのに、二番煎じのような研究では意味をなしません。
  日本ならではのオリジナリティを付加し、その成果を世界中に発信できる研究ができればよいですね。
  どんな研究も最初は基礎からスタートします。ですが、基礎研究のままで、“おもしろいね”で終わらせてしまうのではなく、どのようなニーズに、どういった形で答えられるかもよく考えて、応用や実用化も見据えた形で、研究を進めていくのがよいと思います。
  安心・安全は、21世紀を生きる私たち日本人にとって、さらに大きなキーワードになっていくでしょう。セコム科学技術振興財団が行う研究助成が、社会の進歩発展につながる研究に寄与していかれることを心から願っています。