京都大学防災研究所巨大災害研究センター 教授 林春男先生インタビュー「地震災害からの総合的復旧指標の開発と、高齢社会に適した効果的な減災戦略の確立」


調査を進めていった上で、明らかになっていったことは何でしょうか

 たとえば、中越地震が起きたときに、新潟の人たちが「中越大震災」と呼んでいることに対して、私たち専門家は「少し過度な表現ではないか」と思っていました。阪神淡路大震災と比べると、被害規模から言えばそんなに大きな災害ではないので、わざわざ「大」をつけることに、ある種の“ローカル性”のようなものを感じていたのですね。
 ところが次の中越沖の地震が起きたときは、「中越沖大震災」とは言わない。この違いがよく分からなかったのですが、調査結果であるこの図を見ていただくと、感覚的に理解できると思います。震災の影響を受けた範囲が、中越地震では全県に広がっています。中越沖地震では、どちらかといえば一部に集中しており、影響を受けた範囲の広さが、確かに違うのです。
 ですから「中越大震災」と言うときの新潟の人たちの気持ちは、「新潟の全部の地域が影響を受けるような震災だった」という意味なのだろうと、この調査をして初めて納得しました。

下図は、実際の震度と被災者意識の関わりをGIS上で表したものですが、これは初の試みですよね。

 初めてです。以前から、「社会調査に地理空間情報を加味する」ということは、ぜひやってみたかったのです。阪神・淡路大震災の復興過程でも少しだけ取り組みましたが、まだまだ不十分だった。そのため今回の調査は、調査デザインの最初の段階から、地理空間の分析を組み込んで設計しました。

調査を実際に進めるにあたって、注意されたことは何でしょうか。

 科学的に妥当なデータを取ることです。細心の注意を払いました。基本的に層化二段の無作為抽出によって、サンプリングをしっかりとって、得られたデータに歪みがないことを保証しよう、と。
 社会調査というのはどうしてもコストがかかってしまうので、お手軽に済まそうとする傾向があります。たとえば一つの小学校を選んで、一斉にそれらの家庭に調査票を配布すれば、それは結局「小学生がいる世帯限定」になるので、ある特定の世代層しか出てこず“有意サンプル”になります。今回の調査は、事前準備に充分時間をかけられたので、空間的にも、年齢層でも男女比でも、できるだけ無作為になるように心がけられたと思います。
 ところで、私たちのように丁寧に社会調査を行えば行うほど、事情を知らない人たちからは「こんなのは誰にでも簡単に答えられる質問じゃないか。意味があるのか」と、非難されることがあります。