安田浩財団理事 東京電機大学 未来科学部学部長 東京大学名誉教授 高柳記念賞受賞記念インタビュー「画像・映像をコンパクトに表現するための符号化方式および通信に関わる研究と国際標準化への貢献」


先生の圧縮技術の開発、そして普及活動のおかげで、日本は2000年を境にして、放送(テレビ)、通信(電話)、無線の3つがすべてデジタル化し三位一体のMPEGデジタル体制へ移行することになります。

 これは世界的にみても珍しいことです。図をご覧いただくとわかるように、昔は、電話による通信しかなく「皆発信はできるが、相手は1人という1対1の通信しかできない」という手段でした。次にテレビ放送は「発信源は少ないが、視聴対象者数は多い」という状態を可能にしました。最後に通信と放送が融合したWEBでは、この2つの中間部分が実現したわけです。

WEBの世界もどんどん進化しています。

 そうですね。WEBにも世代論があります。簡単にいえばWEB1.0は「誰でも放送局になれる」ということでした。つぎに登場したWEB2.0はブログやフェイスブックをはじめとしたSNSのように「誰でもコミュニティを作れる」ようになりました。最後に3.0の時代というのは、蓄積された情報と推測を活用すれば、それは「瞬間移動術を体得した」ことになる、「時間も空間も飛び越えた移動」という意味でこれはタイムマシンですね。今はまだ未来には行けませんが、過去のことはおおよそ検索して知ることができるようになります。時間軸を移動できるという意味では4次元を操れる時代に突入したということですね。

たしかに、WEBに流れる映像には有無を言わせぬ力があると感じることがあります。

 その最たるものが2010年に起きた尖閣諸島で中国漁船が海上保安庁の巡視艇に衝突し、その映像が動画サイトYou Tubeに流れた事件でした。映像が公開されるまでは「本当はぶつかっていないのではないか」など否定的な憶測が流れましたが、You Tube上の映像を見れば一目瞭然、ぶつかっていないと主張する人はいなくなりました。

文章では、読み手によって様々な解釈が可能になります。ですが、映像は万人が同じイメージを共有できるため意見の相違が起こらないというメリットがありますね。 

 江戸時代からつい最近まで、日本人が一人の社会人として自立していくために必要なのは、読み書きソロバンだといわれていました。ところがWEB3.0の時代には創映、つまり自分で映像を作っていける能力が必要になります。そこでDMD(Digital Movie Director)というソフトウエアを開発しました。これはシナリオを入力し、素材コンテンツを選べば、誰もが簡単にCG映像を制作できるものです。今のところ、商用を禁止しておりますが、これを進化させていけば、誰でも映画監督やテレビのディレクターになることができます。最終的な目標としては、映像上映時間の10倍以下の時間で作れるようになればいいと思っています。

安田先生には、後進の研究者の指導という役割もあると思われますが「科学者」とはいかにあるべきだと思われますか。

 研究室のなかで実験をして満足するだけでなく、実際に社会でその技術を使われることを想定しながら研究していただきたいです。極端な例を挙げますと、原子爆弾ができたからといって、どこかの砂漠で核実験をしようにも周りへの影響を考慮にいれないといけませんね。また倫理観の問題もあります。「研究室のシミュレーションと現実は違う」ということを常に念頭において欲しいと思います。
 もうひとつ言っておきたいのは、できるだけ大きなことに対して「なぜ」という問いかけをして欲しいです。「生命とは何か」「科学とは何か」「安全・安心とは何か」というように本質的な疑問をもって研究していくことが大切です。いまの科学者は、目の前の小さな問題を解決しようとします。「これまでの方法に比べ2%性能が向上しました」では、専門の研究者にとっては重要な進歩であっても、社会的にはその何倍も性能が向上しないと意味をなさないと見なされてしまいます。

最後に、セコム科学技術振興財団への要望、メッセージをお願いします。

 安全・安心というテーマにおいて、社会のためになる発明、発見に対しての助成はできていると思います。ですがそのような発見をする研究者の数自体が日本では減っているような気がしてなりません。
 現在の財団の活動にプラスして、教育的な方面に助成をし、これまでの研究とは違った独創的な発想をしたり、チャレンジしてみたいという考え方を持つ人を育てるという方向へ動いてみてもいいのでは、と思っています。

お忙しいなか、ありがとうございました。