海洋研究開発機構 地震火山研究部門 地球内部観測センター 専門部長(海底観測システム担当)
そうです。ゆっくりした、微弱な動きをとらえるため、高精度かつ高密度な観測システムが必要です。
そこで注目したのが「分散型音響センシング(DAS: Distributed Acoustic Sensing)」と呼ばれる技術です。光ファイバーは、レーザー光によって情報を伝達しますが、その一部は戻ってきます。この光は「後方散乱光」と呼ばれており、海底の変動やひずみに応じてケーブルが伸び縮みすると、後方散乱光の位相(波のタイミング)も変化します。その変化を解析することで、ケーブルの長さの変化を把握し、海底や地盤の動きやひずみを推定するのです。
後ほど詳しくご説明しますが、DONET(地震津波観測監視システム)などの従来の地震・津波観測網は、地震計や傾斜計などのセンサーで観測したデータを、光ファイバーケーブルで観測所やデータセンターに転送します。これに対し、DAS観測はファイバーケーブル自体をセンサーとして活用します。
つまり、従来システムの「センサーを設置した地点ごとの観測」に対して、DAS観測は「ケーブル数メートルごとの密な観測」が可能なのです。また、地面の微小な動きやひずみなども、高速かつ高精度に検出できます。
一方で、検出精度が地盤とケーブルの密着度に影響されたり、ケーブルが直線状に敷設されるため、観測点が偏りやすいなどの弱点があります。
そのため本研究では、既存の地震津波観測網とDAS観測網を組み合わることで、それぞれの利点を生かし、通常の地震とスロー地震・ゆっくり滑りの両方をリアルタイムで検出する方法を考案しました。さらに、震源域の推定やマグニチュードの評価も自動で行う地震観測・解析システムの開発を目指しました。
なお、リアルタイムかつ自動で震源を推定するためには、検知されたシグナルが通常の地震か、スロー地震・ゆっくり滑りかを最初に区別しなければいけません。通常の地震の場合は、P波・S波の到達時刻を自動で読み取れるようにする必要があります。そこで本研究では、深層学習を活用しました。
南海トラフでは、2010年代にDONET(DONET-1、DONET-2)と呼ばれる海底地震・津波観測ネットワークが海洋研究開発機構により整備されました。現在は防災科学技術研究所が運用管理しており、各観測地点で地震や津波のリアルタイム観測が行われています。そして2022年からは、私達の研究グループが南海トラフ沿いの室戸沖で、DAS観測を実施してきました。
DAS観測を継続的に行ったことで、スロー地震もこの技術で検出できることが実証されたため、震源やマグニチュードの推定に通常の地震だけでなく、スロー地震の解析も行う体制を整えました。
(左)DAS観測の概念図:光ファイバー内を進むレーザー光の後方散乱光の位相の変化から、海底の動きやひずみを推定。(右)室戸沖におけるDAS観測用の海底光ファイバーケーブルの位置と、DONETの観測地点:◇は通常の地震の震央、グレーはスロー地震の震央なお、DONETなど既存の海域地震津波観測網は、海底の「揺れの向きや速度」を検出し、観測点ごとのデータを取得します。DAS観測は海底の「ひずみの変化」を数メートルおきの高密度で解析し、データを取得します。特性が大きく異なるデータを組み合わせて処理するために、アルゴリズム(データの処理方法)を工夫しました。
「PhaseNet(フェーズネット)」のチューニングを行いました。PhaseNetは深層学習によって、地震波形からP波・S波を分類し、それぞれの到達時刻を自動的に検出するアルゴリズムです。震源の推定に重要な役割を果たします。
ただし、DAS観測のデータにはうまく適用できませんでした。具体的には、P波到達時間の認識が難しいなどの問題点があります。
そこで、DAS観測データから手動で検出した地震波形や、DONETデータから自動で読み取られた地震波到達時間などのデータを用いて、PhaseNetの再学習を行い、うまく機能するよう調整しています。
また、地震波の波形や伝達、振幅などを手掛かりに、補正値(測定値や計算値のずれを直すために加える値)を観測点ごとに設定するなどの手法も採用しています。
現在は最先端の機械学習の技術を活用しながらも、専門家による補正が必要な状態。最終的には、すべてのプロセスを自動で進められるようにしたいと考えている