海底光ファイバー観測に基づくリアルタイム地震・スロー地震解析の開発と展開
荒木 英一郎 先生

海洋研究開発機構 地震火山研究部門 地球内部観測センター 専門部長(海底観測システム担当)

助成期間:令和5年度~
キーワード:地震 光ファイバセンシング 南海トラフ 研究室ホームページ

2000年3月東京大学大学院理学系研究科博士課程修了、博士(理学)。同年4月から海洋科学技術センター(現:海洋研究開発機構)深海研究部に勤務。2026年より現職。海域の地震・地殻変動観測システムの開発及び観測データに基づく海域地震研究に従事。

まずは、先生が地震研究に取り組むようになったきっかけを教えてください。

私はもともと地球や惑星の成り立ち、内部構造に興味があり、大学では地球惑星物理学を専攻していました。そこで地震や振動を通して内部構造を推測できると学び、次第に地震にも関心を持つようになりました。

注目したのは、海域の地震と海底下の構造です。日本は海洋国家であるにもかかわらず、海域には地震観測網が十分設置されておらず、海底下の構造の詳細は不明のままでした。そのため、研究の余地があるのではないかと考えました。

はじめに地下構造への関心があったのですね。

その通りです。しかし、日本は世界でも類を見ない地震国です。特に、静岡県沖~日向灘沖の南海トラフの沈み込み帯(2枚のプレートが重なる場所で、一方のプレートの下に、もう一方のプレートが沈み込む帯状の部分)では、100~200年の周期でマグニチュード8クラスの巨大地震が発生しており、21世紀半ば頃までに巨大地震が起こる確率は80%以上と言われています。

こうした状況を鑑みて、地震研究を通して社会に貢献したいと考えるようになり、院生の時には海底観測網の設置や、それを用いた海底地震の観測に取り組みました。

今回のご研究は、スロー地震をテーマにされています。なぜスロー地震に注目されたのでしょうか。

南海トラフの巨大地震を検証すると、短期間のうちに、隣接する領域で地震が連続しているケースが見受けられます。たとえば、1854年には南海トラフの東側領域(熊野灘~駿河湾)を震源域とする「安政東海地震」が起こり、その約32時間後には西側領域(紀伊半島沖~高知県中部沖)を震源域とする地震(安政南海地震)が発生しました。同様の現象は、14世紀や20世紀にも起こっています。

2024年の日向灘地震は南海トラフ西端部分で発生したが、巨大地震の連続を警戒して、地震臨時情報が発表された

こうした巨大地震やその連続発生に関わりがあると考えられているのが、プレート間の断層が、数日から数カ月という、通常よりも長い時間をかけて徐々にずれる現象である「スロー地震」です。P波(地震発生時に最初に到達する縦の地震波)やS波(P波に続いて届く横の地震波)などの地震波が弱いか検出されないのが特徴で、その中でも、地震波を伴わない現象は「ゆっくり滑り(スロースリップ)」と呼ばれます。

断層がゆっくり滑ることで、スロースリップの周辺での断層の応力が変化し、巨大地震の発生につながる可能性が指摘されています。そのため巨大地震のリスクが高い地域では、スロー地震やゆっくり滑りなどが起こっていないかをリアルタイムで監視する必要があるのです。

2026年に千島海溝・日本海溝沿いの領域で発生した三陸沖地震の前には、ゆっくり滑りが起こっていた可能性がある。前年に発生した地震の前後から微動など、非地震性すべりを示唆する活動が継続していた。2011年の東北地方太平洋沖地震の前にも、スロー地震の発生が報告されている

通常の地震と同じように、スロー地震も観測の対象になっているのでしょうか。

はい。気象庁評価検討会や地震調査委員会は、南海トラフでこれらの現象の観測・監視に努めてきました。

しかし、既存の観測網は通常の地震を対象に設計されており、スロー地震やゆっくり滑りの観察には必ずしも適していません。特に、沈み込みの浅い部分で起こる地震や、スロー地震・ゆっくり滑りに関しては、海底観測網の密度が不足しています。加えて、沈み込みの浅い部分の地殻構造モデルが従来の地震解析システムに反映されていないことなどから、震源の推定が難しい状態にあります。