海底光ファイバー観測に基づくリアルタイム地震・スロー地震解析の開発と展開
荒木 英一郎 先生

海洋研究開発機構 地震火山研究部門 地球内部観測センター 専門部長(海底観測システム担当)

南海トラフ以外では、DASを用いた地震観測や解析は実施されなかったのでしょうか。

通信会社と共同で、南西諸島に属するトカラ列島でDAS観測と解析を行いました。トカラ列島では2025年6月から群発地震活動が活発化していましたが、震源域が海域であったのに対し、観測網が陸上に限られていたため、詳細が明らかになっていなかったのです。

その結果、観測される地震の頻度が低下していたにもかかわらず、実際には1分間に1回程度のペースで小規模な地震が発生していることがわかりました。その震源も、大部分を突き止めることができました。そのほか、海底の非常に浅い場所で発生していると考えられる地震活動も観測できました。

このようにDAS観測によって、これまで検出が難しかったタイプの地震も観測・分析できるようになりました。

PhaseNetのチューニングは必須だが、解析精度にこだわり過ぎると、データ処理が追いつかず、実際の現場では使用しづらくなる可能性がある。そのバランスに注意しながら、研究を続けている

今後の展望について、教えてください。

将来的に巨大地震が発生する可能性はあるものの、そのリスクを十分に把握できていない海域はいまだ多く残されています。今後はそうした領域で、本研究で開発した地震観測・解析システムを活用して、巨大地震との関連が指摘されている現象をリアルタイムで検出・解析できるようにしたいと考えています。

観測や分析を積み重ねていくことで、地震発生のメカニズムの理解や、以前から取り組みたかった海底下の構造の解明にも近づけるのではないかと期待しています。

そのためには、DAS観測用の海底光ファイバーケーブルを確保する必要がありますね。

コストの面から考えて、既設の通信用ケーブルを使うのが理想ですが、そのためにはいくつかのハードルが存在します。

まず、通信用のケーブルは、DAS観測向けに設計されていないため、海底の動きに合わせて光ファイバーの歪みが変化しない可能性があります。また、摩擦力だけで海底に付着している状態なので、地震や津波が起こると外れてしまい、正確にセンシングできなくなる可能性があります。埋設するのが理想ですが、多大なコストが必要です。

法的な問題もあります。通信のために使用中のケーブルを通信の目的以外で使用してよいのか。ケーブルを地震観測に用いてよいかどうか、法律に明記されていません。そのため企業や自治体に協力を求めても、法的根拠が不明瞭であることを理由に二の足を踏んでしまいます。

しかし、これまで観測が困難であった地震やスロー地震などがリアルタイムで検知できた実例を提示することで、関心を持ってくださる組織や自治体が増えて来ました。今後、法的な整備が進むことを期待するとともに、様々な地域で地震の観測・解析を行い、本システムの有効性を実証していきたいと考えています。

ありがとうございました。最後に、特定領域研究助成を受けたご感想と、これから助成に応募する研究者へのメッセージをお願いします。

今回取り組んだ地震観測・解析システムの開発は、新規性が高く、実装して初めて成果をあげられるテーマです。そのため、学術的成果を重んずる観点からは評価されにくく、他の助成制度では対象になりにくい傾向にありました。

また、私は普段は、大規模なプロジェクトの一員として、地震研究に幅広く取り組んでいます。今回は地震観測・解析システムというテーマに特化して申請しましたが、採択してくださり深く感謝しています。

他では採択されにくいテーマでも、セコム科学技術振興財団の助成では、研究意義が認められれば支援していただける可能性があります。良い意味で「ユニーク」な助成なので、積極的に申請することをおすすめします。安全安心な社会の実現につながる、有意義な研究ができるのではないかと思います。

研究チームを組織することは決して容易ではないが、助成していただいたおかげで、必要とする分野に熟達した研究者をメンバーとして迎えることができた。大変ありがたく思っている

地震やスロー地震、ゆっくり滑りをリアルタイムで検出し、震源域や活動の推移などを把握できるようになることで、安全・安心な社会の実現につながることを期待しております。お忙しい中インタビューにお付き合いいただき、ありがとうございました。