福島県立医科大学教授 結城美智子先生インタビュー「在宅がん患者の化学療法に伴う抗がん剤人的環境曝露防止のための地域安全システムの構築」(第1回)

いま結城先生がおっしゃったように、医療従事者によって、患者やその周囲の人に対する、抗がん剤曝露の危険性指導は、する人がいたりいなかったりと、一定ではないのが気になります。

 患者さんに対して、トイレの使用法などを教えてくれるのは、まだ良いほうで、まったく教えてくれない病院、医療従事者も多いようです。彼らのなかには「抗がん剤の危険性を患者に説明しすぎると、患者さんが怖がってしまう」という見解をもっている人もいます。もちろん、その言い分にも一理あるのですが抗がん剤を使用する側に「科学的に有用なデータに基づいた統一の見解をもって適切な指導したい」というのが現状だと思います。このことは私の準備研究結果により、日本のみならず在宅医療先進国においても同様の傾向があることが把握されました。

さらに、がん患者の化学療法は今後ますます、入院治療から外来にシフトすると見込まれていますね。

 以上のことから、今回の研究では、病院内の環境(Study A)と患者さんの自宅環境(Study B)がどの程度汚染されているかを調べるととともに、その環境だけでなく、医師や患者さん家族の人体にどの程度曝露が広がっているのか(Study C・Study D)、まで範囲を拡げて検証してみたいと思ったのが、今回の研究をはじめた動機です。
  また、今回の調査・研究のすべてに共通することとして、シクロフォスファミド(CP)という抗がん剤の残留を計測するようにしました。使用頻度が多いというのがその理由のひとつです。

それでは病院内の汚染状況の調査(Study A)について説明してください。

 福島県内にある2つの病院の外来化学療法部門において、患者さんや家族に、影響があると考えられるところと、患者に接した看護師の使用後手袋、エプロンまでを含め、計34ヶ所を対象に拭き取り調査をおこないました。結果は、16カ所からがシクロフォスファミドが検出されました。

汚染の程度が高かったのは、どこでしょうか。

 図をご覧ください。まず、B病院・入口のドアノブ(室内側、0.69ng/cm2)と、A病院入口のドアノブ(室内側、0.10ng/cm2)、B病院・点滴スタンド(0.14ng/cm2)の値が高かったですね。これは、たとえお見舞いで病院を訪ねることがあっても、汚染されたままのドアノブを触るときには、注意が必要だということを意味します。
  病院別にみると、A病院では患者用オーバーテーブル(0.06~0.03ng/cm2)、患者ベット柵(0.03~0.02ng/cm2)、外来化学療法部門内の便器および床(0.02ng/cm2)、看護師使用後エプロン(0.01ng/cm2)といったところ、B病院では患者ベット柵(0.09~0.08ng/cm2)、床頭台(0.09~0.06ng/cm2)、冷蔵庫取手周囲(0.02 ng/cm2)などから検出されました。
  ちなみに、床頭台とは、ベットの脇に置いてある、引き出しや戸棚の付いた台のことです。患者さんが日用品を入れたり、食事の際、テーブル代わりに使用したり、また治療や看護の際には簡易の処置台になるところです。

ゴム手袋やエプロンは、どうだったのでしょうか。

 病院A、病院Bの看護師の使用した使い捨てゴム手袋4枚のうち3枚からシクロフォスファミドが検出され、その量は640ng、53ng、2498ngでした。これは単位面積あたりの量ではなく、絶対量としてかなり多いですから、無視できない高い数値です。
  つまり、拭き取り調査対象となった場所のシクロフォスファミドの検出量は低かったが、入り口のドアノブや看護師の手袋の汚染は高い値を示しており、このことは医療従事者のみならず、外来化学療法部門に出入りする患者や家族への抗がん剤の二次的曝露のリスクがあることが改めて示されたことになります。