福島県立医科大学教授 結城美智子先生インタビュー「在宅がん患者の化学療法に伴う抗がん剤人的環境曝露防止のための地域安全システムの構築」(第1回)
がん治療に用いられる抗がん剤は、腫瘍細胞だけでなく正常な細胞にも影響を及ぼす危険があります。そのため薬剤師や看護師の職業性曝露に関する研究、および安全確保のためのガイドライン作成が世界中で進められており、日本でも医療機関内では厳重な曝露対策が行われています。しかし近年、がん患者の化学療法が入院から外来へとシフトしていく中、患者の家族や身近な人々の曝露リスクが浮き彫りになりました。
結城先生はこの課題に対し、外来でがん化学療法を受ける患者と家族の安全・健康の視点から、病棟医師や家族の抗がん剤曝露の実態、病棟や自宅環境の汚染状況、在宅医療における曝露予防教育の取り組み等について研究を行っています。今回は福島県立医科大学にて、直接お話を伺いしました。
結城先生はこの課題に対し、外来でがん化学療法を受ける患者と家族の安全・健康の視点から、病棟医師や家族の抗がん剤曝露の実態、病棟や自宅環境の汚染状況、在宅医療における曝露予防教育の取り組み等について研究を行っています。今回は福島県立医科大学にて、直接お話を伺いしました。
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東北大学医療技術短期大学部看護学科および聖路加看護大学卒業。聖路加看護大学大学院修士課程、東北大学医学系研究科博士後期課程を修了する。約10年の臨床経験と、研究者としてのキャリアを積み、2004年に厚生労働省に新設された「在宅看護専門官」に着任。聖路加看護大学助手、宮城大学看護学部講師・助教授を経て、2005年より福島県立医科大学の教授に。現在は看護学部において在宅看護学、地域看護学を担当している。博士(障害科学)
抗がん剤の曝露について詳しくご研究されているとお聞きし、取材に来させていただきました。
ありがとうございます。まず、遠く福島まで来て下さって、取材をしていただけるとのことを、感謝しております。私達は専門家ですから、自分達の研究に対してどうしても同じ視点、発想しかもてません。逆にインタビュワーの方から新鮮な意見を聞いてみたいですし、こちらから質問することもあるかもしれません。そのあたりもご協力いただければ嬉しいです。
それでは、ご説明をはじめさせていただきますが、ご存じのとおり、抗がん剤の取り扱いは、必要な知識を身につけ、正しく行われれば何ら問題はありません。ですがその曝露(さらされてしまうこと)による人体への影響には、急性アレルギー、発がん、遺伝毒性、胎児流産、先天性異常の危険があるとされています。
それでは、ご説明をはじめさせていただきますが、ご存じのとおり、抗がん剤の取り扱いは、必要な知識を身につけ、正しく行われれば何ら問題はありません。ですがその曝露(さらされてしまうこと)による人体への影響には、急性アレルギー、発がん、遺伝毒性、胎児流産、先天性異常の危険があるとされています。
抗がん剤は、腫瘍細胞だけでなく正常細胞への影響を考慮にいれなければいけないということでしょうか。
はい。1948年にイギリスのHaddowは「制がん危険性を有する物質は、同時に制がん作用を有し、その逆も真である」と述べています。取り扱いを間違った抗がん剤の治療によって、発がんすることがあるという事実が発表されています。
じつは、抗がん剤自体は、細胞毒性を有するハザード・ドラッグスに含まれています。ハザード・ドラッグスとは、米国病院薬剤師会の定義をもとに、米国国立労働安全衛生研究所が、1)発がん性、2)催奇性、3)生殖毒性、4)臓器障害、5)遺伝毒性、6)危険薬剤に構造や毒性か類似している、以上6つのうち1つ以上満たしている薬剤のことと定義しています。
ですから、多くの抗がん剤は、がん細胞を死滅させると同時に、正常細胞のDNAや染色体にも作用し、細胞のタンパク合成に影響を与え、突然変異を引き起こす可能性があります。突然変異を起こしたDNAや染色体の多くは、異常細胞として生体免疫反応によって取り除かれますが、残存した一部が、がん細胞へと変化してしまうのです。
じつは、抗がん剤自体は、細胞毒性を有するハザード・ドラッグスに含まれています。ハザード・ドラッグスとは、米国病院薬剤師会の定義をもとに、米国国立労働安全衛生研究所が、1)発がん性、2)催奇性、3)生殖毒性、4)臓器障害、5)遺伝毒性、6)危険薬剤に構造や毒性か類似している、以上6つのうち1つ以上満たしている薬剤のことと定義しています。
ですから、多くの抗がん剤は、がん細胞を死滅させると同時に、正常細胞のDNAや染色体にも作用し、細胞のタンパク合成に影響を与え、突然変異を引き起こす可能性があります。突然変異を起こしたDNAや染色体の多くは、異常細胞として生体免疫反応によって取り除かれますが、残存した一部が、がん細胞へと変化してしまうのです。
古くは、1979年にフィンランドのファルクらが、抗がん剤を取り扱う看護師の尿から、残存物を検出したと報告し、医療従事者に対する初の毒性報告として注目を集めましたが…
病院内での曝露としては、注射用アンプルやバイアル瓶の薬剤を溶解液で溶かしたり、他の注射液と混合したりする調剤や調合時などにエアロゾルが発生してそれを吸入してしまう場合や抗がん剤が直接皮膚や粘膜に付着することなどが多いとされています。ほかにも、手指についた抗がん剤が、食事などのとき、口から入ってしまうといった経路が考えられます。
このような時に、医師や看護師、薬剤師などの安全を確保するため、その取り扱いに関しては、さまざまなガイドラインがすでに示されており、世界各国で「注意すべし」との共通の認識があるのです。そして、いまではその認識がある程度広まっていますから、抗がん剤を取り扱う医師、薬剤師、看護師などは、帽子・グラス・マスク・エプロン・手袋などで、肌を露出せず完全に防護をした上で、他に飛散しないよう専用キャビネットの中で薬を扱うようになっています。
このような時に、医師や看護師、薬剤師などの安全を確保するため、その取り扱いに関しては、さまざまなガイドラインがすでに示されており、世界各国で「注意すべし」との共通の認識があるのです。そして、いまではその認識がある程度広まっていますから、抗がん剤を取り扱う医師、薬剤師、看護師などは、帽子・グラス・マスク・エプロン・手袋などで、肌を露出せず完全に防護をした上で、他に飛散しないよう専用キャビネットの中で薬を扱うようになっています。
薬を扱う医師、看護師に曝露対策を行う必要があることは理解できますが、投与をうけた患者さんは、本人の身体の中に抗がん剤が存在するわけですし、その曝露対策といわれても、もう一つピンとこないのですが…。
おっしゃる通りです。後ほど詳しく述べさせていただきますが、患者に投与された抗がん剤の、ある程度の割合が、まだ充分に活性がある状態で、尿や便から排泄されます。これが病院内だといいのですが、いまは外来で、2〜3時間すると自宅に帰されてしまう患者さんが多くいます。その患者さんは自宅のトイレで排便をし、そのトイレ環境に汚染が広がってしまうのです。抗がん剤は、体外へ尿や便等という形で排泄されても、その危険性は衰えていないということをまず強く認識する必要があります。
抗がん剤は、体内通って排泄されても、その毒性はほとんど衰えないと…
はい。ですから、正式なガイドラインでは、治療後48時間までを目安に自宅で患者の排泄物を取り扱う際には、マスクやガウン、使い捨て手袋の使用など、医療機関内での曝露予防法に準じる必要があるとされています。
たとえ、そこまではできなくても、曝露予防に関心のある医師や看護師であれば
「自宅にトイレが2つある場合は(ある一定期間)、1つを患者さん専用にしてください」
「トイレで便を流す際には、蓋をして1度ではなく2度、行うようにしてください」
という指導はなされているようです。しかし、排泄後2度流すことの効果を示すエビデンスも明らかではありません。
たとえ、そこまではできなくても、曝露予防に関心のある医師や看護師であれば
「自宅にトイレが2つある場合は(ある一定期間)、1つを患者さん専用にしてください」
「トイレで便を流す際には、蓋をして1度ではなく2度、行うようにしてください」
という指導はなされているようです。しかし、排泄後2度流すことの効果を示すエビデンスも明らかではありません。