立命館大学理工学部電気電子工学科 教授 瀧口浩一先生インタビュー「光信号の符号化・暗号化/復号化技術と高セキュリティ・低消費電力な光通信の実現」(第2回)


だから暗号化が重要なのですね。

 そうです。ただし「暗号化すれば絶対に情報が漏れない」というわけではありません。
 たとえばテレビの有料放送は、契約をしなければ、チャンネルを合わせても何も映りません。信号が暗号化されているためです。契約をするとテレビに向けて暗号化を解除するキーが送信されて、放送データの暗号化が解除されるため、番組を視聴できるようになります。
 このような暗号化を解除するキーのパターンは、盗聴のプロや暗号の専門家によって推測され、見破られる可能性がゼロではありません。そのため、いかに推測されにくい符号パターンを選ぶかが重要になります。符号理論の研究資料などを調べて推測されにくいパターンを検討し、光XOR回路を活用した暗号化に使いたいと考えています。

その他に、実用化までの課題はどのようなものがありますか。

 社会で広く使ってもらうために、必要なことは3つあります。
 第一に、小型化です。集積して小型化しなければいけません。この光XOR回路を集積できる技術はまだ開発されていませんが、光・電子融合型の集積回路技術が着実に進展しているため、近い将来、実現可能になると思っています。電子回路のような極小サイズにはできませんが、指先程度のサイズに納まることが理想です。
 第二に、低コスト化です。前回お話ししたとおり、光通信用デバイスは電子通信用デバイスよりかなり高価で、今回の研究で構築した光XOR回路は約400万円のコストがかかっています。集積化が可能になれば、小型化だけではなく低コスト化も実現できます。この研究期間内での実現は無理ですが、集積化による小型化+低コスト化を目指していきたいと思います。
 第三に、この光XOR回路が社会にとって必要であり、メリットが大きい技術であることを明確にしなければいけません。

メリットというと、光領域での処理を活用したことならではの高速性や、低消費電力性でしょうか。

 それももちろんですが、信頼性も重要です。
 高レベルのセキュリティが確保されて盗聴されにくいこと、また暗号化/復号化によってデータの間違いが生じないことなどはもちろん、たとえば大地震などの非常事態が起こっても正常に動作し、万一動作が止まるなどの事態が起こっても、すぐに復旧できる技術であることが重要です。「どんな状況でも間違いなく作動する」技術を目指さなければいけません。
 今はまだ原理確認が終わったばかりです。実用化を目指すためには、大学の一研究室だけでは対応できないような大きなハードルがいくつもありますが、他機関のご協力も仰ぎながらひとつずつ着実に解決して進めていくことができればと考えています。