早稲田大学創造理工学部 建築学科 教授 高口洋人先生インタビュー「建築物のレジリエンス評価手法の開発研究」(第2回)


では次に、ボトルネック指数についてお願いします。

 ボトルネックとは「1つの要因が、全体の性能や結果を左右する最大の原因になる」ことです。ボトルネック指数が高いほど、全体への影響が大きくなります。イベントツリー分析によって注目すべき系統が明らかになった後、ボトルネック指数を出すことで、その系統のどの設備の耐震化を特に優先的に進めるべきかが分かります。
 計算式は【復旧日数×被害の発生確率×設備の重要度】です。設備の重要度は「その設備が使用されているエリアの数」を「その建築物の総エリア数」で割った数字です。たとえば建物内の8割のエリアで使用されている設備Aと、2割のエリアでしか使用されていない設備Bであれば、設備Aのほうが重要度が高くなります。

これまでご説明いただいた手法を使って、実際の建物でのケーススタディも行ったそうですね。

 はい。千葉県佐倉市にご協力いただき、市の公共施設の設備について評価させてもらいました。関東ローム層の上に建つ中規模の建築で、地上5階・地下2階の構造、Is値は0.7で建築基準法が求める水準を満たしています。ただし特別な災害対策は行っていません。設備の耐震性は、クラスS、A、Bというように、耐震クラスという表現で評価されていますが、この建物では、一部の設備を除いて上から2番目のクラスBでした。
 調査の結果、電気設備が地震の被害を受けた場合の復旧日数期待値は19日。ボトルネック指数が最も高かったのは、地下2階に設置されているキュービクル(高圧受変電設備)でした。
 たとえばキュービクルの耐震クラスをBからSに変更すると、復旧日数期待値は1日短縮できます。さらに電気設備をすべてSクラスにした場合は、9日まで短縮できます。この日数はあくまでも期待値ですが。

ひとつの設備の耐震クラスを向上させるだけでも、ちゃんと効果があるのですね。ところで、同じ設備でも階によってボトルネック指数が違うのはなぜですか。

 一般的に、建物の地震による揺れは上階になるほど大きくなります。同じ建物でも階ごとに揺れの大きさが変わるので、それも含めて軽微な被害・重大な被害の発生確率と、復旧日数を計算しました。その結果、たとえば同じ配電盤でも、3階より4階のほうが当然大きくなりました。
 これは電気系統に限らず、どの設備でも同じです。ある事業用ビルの設備被害について調べたところ、9階の空調ダクトと2階の空調ダクトでは、以下のような明確な違いがありました。
 【9階ダクト】
 軽微な被害が発生する確率:27% 重大な被害が発生する確率:5%
 軽微な被害の復旧日数:10日 重大な被害の復旧日数:30日
 【2階ダクト】
 軽微な被害が発生する確率:12% 重大な被害が発生する確率:1%
 軽微な被害の復旧日数:5日 重大な被害の復旧日数:15日

設備の種類だけでもたくさんあるのに、さらに階ごとに計算し直すのは、とても大変な作業ですね。

 現時点では大変です。情報がどこにもないため、地道に集める必要があります。