早稲田大学創造理工学部 建築学科 教授 高口洋人先生インタビュー「建築物のレジリエンス評価手法の開発研究」(第1回)
建物の利用状況とは、どのような情報ですか。
たとえば照明をどのような方法で天井に取り付けているのか、エアコンや室外機をどのように設置しているのかといった情報です。
建築設備の取り付け方法は「建築設備耐震設計・施工指針」により、Sランク、Aランク、Bランクに振り分けられます。地震によってどの設備がどれくらい被害を受けるのかを予測するためには、各ランクの設置方法で取り付けられたケースをそれぞれ一定件数ずつ調査し、被害が発生する確率を関数として作成しなければいけません。
建築設備の取り付け方法は「建築設備耐震設計・施工指針」により、Sランク、Aランク、Bランクに振り分けられます。地震によってどの設備がどれくらい被害を受けるのかを予測するためには、各ランクの設置方法で取り付けられたケースをそれぞれ一定件数ずつ調査し、被害が発生する確率を関数として作成しなければいけません。
設備そのものの強度ではなく、取り付け方のほうが大事なのですね。
両方です。たとえばエアコンの設置方法は、主に吊り下げ式と壁掛け式の2つがあります。吊り下げ式は地震の際に大きく揺れるため、落下のリスクが高まります。壁掛け式は落下リスクが軽減しますが、揺れが直に本体に伝わるため故障する可能性が高くなります。
しかし「実際にこのような破損があった」というデータは蓄積されていません。阪神・淡路大震災での調査例がありますが、十分とはいえない数です。東日本大震災直後の緊急調査では「このような被害があった」という報告がされていますが、「この設置方法であったため、このような被害になった」という詳しい記録はありません。本来地震保険に入っていれば、そのような情報は保険会社に蓄積されていくのですが、加入者が少ないのでそれも期待できません。
そのため過去のわずかな地震被害データを参考に、各建築設備が地震動を受けた際の被害形態と復旧日数を、ひとつずつ想定していきました(左図は水槽類設備の推定復旧日数)。点検または簡単な補修で使用可能になる状態を『軽微な被害』、補修や改修を行わなければ使用不能である状態を『重大な被害』としています。
次に、地震によって建築設備に被害が発生する確率を算出するため、文献を調べたり、小規模調査を行ったりして『建築設備の被害率曲線』を作成しました。この被害率曲線を利用して「どのような揺れが起きたとき、どれくらいの確率で、軽微な被害または重大な被害が発生するか」という関数を作成しました。あくまでもこれは出発点となる想定で、実績データが積み上がるにつれて修正されていくべきものと考えています。

しかし「実際にこのような破損があった」というデータは蓄積されていません。阪神・淡路大震災での調査例がありますが、十分とはいえない数です。東日本大震災直後の緊急調査では「このような被害があった」という報告がされていますが、「この設置方法であったため、このような被害になった」という詳しい記録はありません。本来地震保険に入っていれば、そのような情報は保険会社に蓄積されていくのですが、加入者が少ないのでそれも期待できません。

次に、地震によって建築設備に被害が発生する確率を算出するため、文献を調べたり、小規模調査を行ったりして『建築設備の被害率曲線』を作成しました。この被害率曲線を利用して「どのような揺れが起きたとき、どれくらいの確率で、軽微な被害または重大な被害が発生するか」という関数を作成しました。あくまでもこれは出発点となる想定で、実績データが積み上がるにつれて修正されていくべきものと考えています。

建物のリスクがここまでハッキリと分かるようになれば、中古物件の価格や賃貸物件の家賃なども大きく変わりそうです。
実は研究を始めたばかりのころ、賃貸物件の家賃と建物の耐震性能は、どれくらい相関があるのか調査をしました。その結果、家賃の決定要素は「最寄駅からの距離」と「築年数」の2つがひじょうに大きく、耐震性能は月額100円程度の影響しかありませんでした。ユーザーが利便性を求めているという現状もあると思いますが、命に関わる要素が100円程度の差しか生んでいないということに、とても驚きました。
近い将来、日本に大きな地震が起こることは、皆が理解しています。しかし「地震が起きたとき、この建物にはこのようなリスクがあります」と正直に公表するとお客が離れてしまうため、誰も積極的にリスク情報を伝えようとしません。
リスク情報の公開を進め、安全・安心な建物を選んで利用できるようにするために、先行してリスクを公開することがビジネスの損失に繋がらないよう、適切に比較・評価できる社会づくりが急務なのです。
近い将来、日本に大きな地震が起こることは、皆が理解しています。しかし「地震が起きたとき、この建物にはこのようなリスクがあります」と正直に公表するとお客が離れてしまうため、誰も積極的にリスク情報を伝えようとしません。
リスク情報の公開を進め、安全・安心な建物を選んで利用できるようにするために、先行してリスクを公開することがビジネスの損失に繋がらないよう、適切に比較・評価できる社会づくりが急務なのです。