東京電機大学工学部 教授 佐々木良一先生インタビュー「安全・安心な情報社会の実現のために」


そんなことは可能なのでしょうか。

 可能です。耐タンパー装置は、私たちの身近にあるのです。たとえば、銀行のキャッシュカードなどに使われている ICカード。持っているからといって、データの中身を見たり、書き換えたりすることは容易ではありません。

ICカードで病院と発電所がデータをやりとりすればいいのでは。

 そう単純なものではありません。ICカードでは、処理速度が遅かったり、データの容量が十分でないという問題が まずあります。また、専用の装置をつくれば費用は高くなってしまいます。
 そこで、私は、既存のパソコンのハードとソフトに少しだけ改良を加えることで、耐タンパー性をもちながら、大量 のデータの高速処理が行えるハイゲート(HiGATE:High Grade Anti-Tamper Equipment)という装置を開発し たのです。
 ホワイトリストを使いプログラムの立ち上げ制御を行ますので、不正なプログラムを立ち上げて、中間出力をした り、ログ(履歴)を消したり、やってはいけない計算をしようということも防げるのです。また、PCがもっている固有の 暗号鍵TPMをつかって、暗号化しておけば、そのPCでは開けるけれども、他のパソコンにいくとデータが読めない ようにすることができるので他のPCに持っていってデータを偽造するのが防げます。

ほかにもハイゲートが利用できる可能性はありませんか。

 実際に、ある組織から機密データを盗み出されたとします。すると、裁判では盗み出されたという経路を証明す る必要がでてきます。ハイゲートはログが改竄されずに保全されていることが簡単に第三者に証明できるので、 訴訟などの際にも有効です。

最後にこのシステムを開発された佐々木先生の思いをお聞かせください。

 これは少し本題からはそれるかもしれませんが、私は常に「ニーズ指向」の研究を志しています。ニーズ志向とい っても現在あるニーズに沿ってそのまま研究するのではなく、世の中がどうなっていくのかを予測し、そのような時代 に必要になる技術やシステムを先行的に開発していくアプローチです。これがうまくいけば、研究成功の秘訣である 「早くやる、長くやる」が可能になり世の中の役に立つ可能性が増大すると思います。研究をやっていて時代が追い ついてきたなと感じるのが一番幸せなときです。

長時間にわたり取材へのご対応、誠にありがとうございました