東京大学地震研究所災害科学系研究部門 准教授 楠浩一先生インタビュー「安全・安心のための即時耐震性能判定装置の開発」(第2回)


地震が起こらなくても、センサや評価装置は24時間作動しているのですね。

 はい。地震研究所に設置したサーバで常時データを受け取っているので、制御用のホームページ上にシステムを設置した建物のリストがあり、各建物の揺れの状態をリアルタイムで確認することができます。
 図1はセンサを設置した建物の各階の様子です。このときは地震が起きていないし、誰も歩いていないのですが、何も起こっていない状態でも0.2ガル程度の揺れと、ノイズは発生します。センサの電源が抜けてしまったときは何も表示されなくなるため、センサが正常に作動しているかどうかの確認もできます。
 図2は神戸の大型振動台で、震度7の揺れで実験をしたときのデータです。揺れ幅が大きくなって目盛が自動的に拡大されるので、ノイズはほとんど見えなくなっています。地震を測定すると、管理画面に最大震度と日時が表示されます。
 図3は建物の弾性を表しています。目視で行う危険度判定と同じ基準で、建物の損傷がひどくなるたびに弾性の傾きが小さくなり、損傷がひどくなると最大耐力が落ちて最終的に倒壊します。
 基本的に評価装置はその建物内に設置するのですが、企業の本社ビルなどでは「自社内に外部のサーバがあり、24時間ネットワークで繋がっているというのはセキュリティ面で問題になる」という声をいただきました。そのため建物内にサーバを入れられない場合はセンサのみを設置して、地震研究所のサーバにデータを転送し計算を実行しています。波形 地震発生時のデータ 建物の損傷レベル

広域で大きな地震が起きたとき、地震研究所のサーバに情報が集まると、処理が間に合わなくなるのでは?

 その解決策の一つとして挙がっているのが「地域ステーション」の設置です。十分なセキュリティを敷いた外部環境にサーバを置き、範囲内にあるセンサのデータを集めて評価判定を行うという方法です。
 この研究が抱える課題のひとつに「データの集め方と活用方法」があるのですが、地域の中でどの建物が壊れているのかがすぐに分かるということは、自治体など行政機関にとって、さまざまな防災活動の役に立つと考えています。また、超高層ビルだけではなく、学校の校舎や体育館等、災害時に避難所となる場所にこのシステムを置くことができれば、震災直後に「安全な避難所かどうか」の判断が明確になるため、重点的に導入を進めて行きたいと思っています。
 停電や断線の問題、セキュリティの問題などをひとつずつクリアして、より多くの場所にシステムを設置してもらうことが、今の目標です。