富山大学大学院医学薬学研究部(医学)内科学(第二)講座 教授 絹川弘一郎先生インタビュー「入退院を繰り返す心不全患者に対する重症化・再入院予防及びQOL改善支援」(第2回)

 豊かな生活の影で、生活習慣病の患者数が増加しています。その中でも心不全は病状が悪化しやすく、一度回復しても再入院する患者が多い病気です。とくに、いざというときに身近な人の助けを得られない独居や老々世帯の心不全患者は常に不安を抱いており、QOL(クオリティーオブライフ)の低下や、入退院を繰り返す原因となっています。
 前回は、入院せずとも医師の療養指導を可能にする「遠隔モニタリング」によって、より患者に寄り添った治療が実現することをご説明いただきました。インタビュー第2回では本格研究の進捗状況について詳しく教えていただきます。

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1988年東京大学医学部卒業、1997年同大学院修了。米国にて5年間、博士研究員を務めた後、2002年から東京大学医学部循環器内科助手、2010年東京大学医学部循環器内科講師、2013年東京大学重症心不全治療開発講座特任教授、2015年より富山大学医学部第二内科教授となり現在に至る。専門分野は循環器内科学・心不全。日本循環器学会の代議員、日本心臓病学会の代議員、日本心不全学会の理事などを務める。日本内科学会認定総合内科専門医、日本循環器学会認定循環器専門医、日本移植学会移植認定医。
研究室URL
http://www.med.u-toyama.ac.jp/inter2/d1.html

まずは前回のおさらいとして、非侵襲の貼り付け型デバイスを遠隔モニタリングに用いることのメリットを、もう一度教えて下さい。

 現代医療では、植え込み型デバイスによる遠隔モニタリングが行われていますが、侵襲的で患者への身体的・心理的負担が大きいという問題があります。 
 一方、貼り付け型デバイスであれば、これらの問題をクリアした上で、患者の生体データを遠隔でモニタリングすることができます。収集したデータを解析することによって、心不全悪化の予兆を検知することができれば、患者の不安を解消するだけでなく、再入院を予防し、経済的負担の軽減が期待できます。

本格研究の目的を教えてください。

 心不全患者の生体データを収集・分析するための情報システム基盤を構築し、心不全重症化検知予測アルゴリズムと、それに基づくオートアラートシステムを確立することを目指しています。
 本格研究ではまず、準備研究において健常者からの生体データ収集試験にて判明した課題を解消し、高齢患者などが自宅で使用しても、簡便かつ安定・継続して生体データの収集ができるシステムを構築しました。現在は、症状悪化パターンを捉えるための心不全重症化検知予測アルゴリズムの確立に向けて、取得したデータの解析を行っています。

患者宅に設置されるデータ転送装置(スマートフォンとソフトウェア)を工夫されたそうですね。

 高齢患者が無理なく継続して使用できるように、できるだけ簡易な操作性を追求しました。患者は非侵襲の貼り付け型デバイスである「HealthPatch」を胸に貼り、毎日1回体重計に乗って、血圧を計るだけで、自動的にデータを収集することができます。スマートフォンでの操作は一切必要ありませんし、誤操作を防止する設定も施されています。また装置にトラブルが発生した場合、管理者がすぐに遠隔で状況を確認できるサポート機能を追加しました。
 万が一、HealthPatchとデータ転送装置の距離が通信可能範囲(約10m)を超えてしまっても、HealthPatch内で約14時間分の生体データの蓄積が可能であり、また自動的に再接続される仕組みとなっているため、ほぼ欠損のない終日のデータ収集を実現できます。ひじょうに簡便で、心不全のリスクが高い高齢患者にとっても使い勝手のいいシステムが構築できました。

準備研究の課題のひとつだった、HealthPatchが正しく装着されていなかった場合については、どのように対処されましたか。

 測定データが確実に受信できているかどうか、また、HealthPatchが正しく装着されているかなどを、データ転送装置が自動で判断し、患者に対して適切に状況を報告するアナウンス機能を搭載しました。たとえば、貼り付けたときには「装着されました」、うまく装着できていないときや通信に問題が発生した場合には「身体から外れています」「通信に問題が発生しました」とアナウンスされます。また、管理者が遠隔でもその状況を把握できるようになったため、患者の機器使用に対する不安がより軽減されたのではないでしょうか。