九州大学 大学院人間環境学研究院 都市・建築学部門 教授 堀賀貴先生インタビュー「古代ローマ帝国の防災・防犯マネジメント」(第1回)
レーザースキャナーで街全体をマクロに計測するというのは、誰でも思いつきそうな気がしますが、遺跡調査はミクロの視点というのが普通なので、誰も行わなかったということですね。ポンペイ調査の結果では、どのようなことが明かになりましたか。
道路はそこを通るものが通行しやすいように作るべきというのが現代人の発想ですが、そのような思い込みが正しい認識をさまたげるというわけですね。その仮説を裏付ける証拠にはどのようなものがありますか。
例えば、道に残された轍(わだち)です。その道路の幅は2台の馬車がすれ違うのに十分な幅がありました。すると轍が4本残っているはずですが、今回の調査によって、道に轍が2本しかないことがわかりました。
また、ほぼ全ての主要道路の両側面に、ロバなど、家畜を係留しておくための穴を多数発見しました。
道路の両側に〝家畜の路駐〟が頻発しているなか、二車線通行をすることは考えられません。荷馬車を、お互い譲りあって慎重に通行「させる」ことによって、事故を起こさず、安全を確保していたようです。
また、ほぼ全ての主要道路の両側面に、ロバなど、家畜を係留しておくための穴を多数発見しました。
道路の両側に〝家畜の路駐〟が頻発しているなか、二車線通行をすることは考えられません。荷馬車を、お互い譲りあって慎重に通行「させる」ことによって、事故を起こさず、安全を確保していたようです。
安全のために非効率な都市設計をするという考え方は、革新的ですね。学会の反応はどうですか。
もともと古代ローマの研究は、現地のイタリア人を除けばドイツ人とイギリス人研究者が主体となっています。彼らは何事においても効率性を重視した考え方をする傾向にあり、ヨーロッパ全土を征服した古代ローマなら、その都市も効率性重視で作られたと想像してしまうのです。
オスティアでも、既存の通説を覆すかもしれない調査結果を得ることができたそうですね。
まず第一に、ポンペイでは多数見受けられた住宅の「鍵」が、オスティアではほぼ見つからなかったことと、第二に多くの建造物の2階部分が、不自然なほど高さを揃えて設計されていたことです。