東京大学 大学院 情報理工学系研究科 知能機械情報学専攻 教授
VNSがもたらす記憶力向上や抗うつ、脳機能障害のリハビリ促進といった作用は、音楽から得られる効果と共通しています。そこで、音楽にもVNS同様に「フィードフォワードとフィードバックのバランスを整える効果」があるのではないかと考えました。
現在、フィードフォワード信号を強めるガンマ波を誘導する音楽を探索し、その効果を検証しています。共同研究者である藤井進也先生は、5Hz帯を強調した「シータ音楽」と、40Hz帯を強調した「ガンマ音楽」を開発しました。これらを試聴すると脳内でそれぞれの周波数の信号が強まり、曲によって反応する脳領域が変わることも分かってきています。
将来的には、患者さんの状態に応じた音楽を提案することで、フィードフォワードとフィードバックのバランスを調整する新しいケアが実現できればと思っています。
新しい挑戦には失敗がつきものであり、時間や手間もかかる。だからこそ、分野をまたぐ研究を軌道に乗せるためには、お互いの信頼とリスペクトが不可欠「この手法を実践すれば、素晴らしい成果が得られますよ」という分かりやすい謳い文句は巷に溢れています。しかし、私がVNSに引き込まれた理由は、まさに「良い側面もあれば悪い側面もある」という二面性にあります。
私たちは脳や体という有限なリソースを使って日々を営んでいます。限られたリソースのなかでどこかの機能を高めれば、ほかの機能が低下するのは当然のこと。そう考えると「すべてを良くする技術」の追求ではなく、適切な「バランス調整」こそが、レジリエンスの鍵になるでしょう。
「脳を調整する」とは、一体どういうことなのか。今後もこの問いを追い続けながら、「調整」という概念の重要性を社会に示していきたいと思います。
手厚いご支援をいただき、心から感謝しております。
印象的だったのは、年度更新のたびに行われるヒアリングです。毎年行われるので大変に感じることもありましたが、選考委員の先生方から鋭いご指摘や貴重なフィードバックをいただいたおかげで、研究を客観的に見つめ直し、改善していくことができました。非常に意義深い制度だったと実感しています。
迷走神経を刺激することでこれほど脳の活動が変わるとは、当初は想像もしていなかった。未知のメカニズムを解き明かせたときの喜びは非常に大きく、これこそが研究の醍醐味だと実感している