
明治大学 理工学部 電気電子生命学科 生命理工学専攻 専任教授
助成期間: 令和6年度〜 キーワード:口腔生理学 ニューロリハビリテーション BMI 研究室ホームページ
2004年、早稲田大学大学院理工学研究科博士課程電気工学専攻修了、博士(工学)取得。早稲田大学人間総合研究センター助手、日本学術振興会特別研究員を経て、2005年から早稲田大学総合研究機構先端バイオ研究所客員講師(専任扱い)およびWaseda-Olympus Bioscience Research Institute (Singapore) 研究員を務める。その後、2006年から2011年まで神奈川歯科大学生体機能学講座講師・准教授を務め、2011年に明治大学理工学部電気電子生命学科准教授に着任。2017年より現職。また、2017年から2018年には米国イェール大学医学部客員准教授も兼任した。
学生の頃は未来のテクノロジーへの憧れが強く、超電導の研究室に入りました。ここで、超電導を利用した磁気センサーに出会いました。このセンサーは、人間の脳から発生するきわめて微弱な磁場を計測できるほどの高い感度を持っています。卒業研究では、実際に脳の磁場を測定し、脳内の電流を解析するプログラムを開発しました。これが、私にとって「脳の活動を計測する」研究の第一歩となりました。
それ以来、脳科学にのめり込み、博士号取得後には脳科学の研究室に弟子入りしました。さらに数年後、生理学の教育に携わったことがきっかけで、身体のさまざまな機能が見事に連携していることに感心して、脳にとどまらず体全体の機能を測定できる方法を開発したいと思うようになりました。
今回のテーマである「嚥下」に関心を持ったのは、歯科大学に勤務していた頃です。「口」を主軸にいろいろな研究をしていくなかで、多くの患者さんや医療従事者が嚥下障害に苦慮している現実を知りました。難しいけれど重要な課題だと痛感し、その解決を目指して本研究に着手しました。
顎関節症になった際、矯正科で調整されたマウスピースを入れたところ、顎の位置が少し変わっただけで口が大きく開くようになり、痛みも1週間ほどで消失した。それが、我が身を持って口腔機能の奥深さを感じた原体験となった嚥下障害とは、「ご飯がうまく食べられない」だけではありません。私たちの喉には、食道と気管の2つの管が入っています。普段は呼吸のために気管が開いており、物を飲み込む時だけ気管の上部にある喉頭蓋という蓋が閉じて、食べ物を食道へと送ります。このメカニズムがうまくはたらかないと食べ物や唾液が肺に入ってしまい、肺炎の原因になるのです。現在、年間でおよそ74,000人の方が肺炎で亡くなっていますが、そのうちの75%が誤嚥性肺炎によるものです。
また、社会の高齢化に伴って嚥下障害の患者数は急増しており、2010年には3.7万人だった数が、2030年には13万人に達すると予想されています。
嚥下障害の最大の原因疾患は、脳の血管が詰まったり出血したりすることで機能が損なわれてしまう「脳卒中」です。本研究は、脳卒中による嚥下機能を回復させる神経メカニズムを解明するとともに、新たなリハビリテーション法を開発することを目的としています。
脳が健常な状態であれば、飲食物を「飲み込もう」としたとき、脳幹にある嚥下中枢が舌や喉の筋に指令を出し、食べ物を口の奥へと送り込みます。その「飲み込みが始まった」という感覚がフィードバックされると、喉頭蓋が下がって気管に蓋をし、食べ物を食道に運ぶ仕組みになっています。
これに対して、脳卒中によってダメージを受けてしまった脳は、まず「飲み込もう」という最初の指令を出す機能が低下しています。飲み込みが始まったとしても、口腔内を何かが通過していることを感知する機能も低下しているのです。
運動の指令を送る機能と、口腔内の状況を認識する機能のどちらかが損なわれているケースがあれば、両方とも損なわれているケースもあります。また、脳幹に近い、嚥下反射が起こる場所の機能が低下しているケースも見られます。病巣の位置によって障害が出る部位が様々であるため、原因を一概に断定できないところが、脳卒中という病気の難しさと言えるでしょう。
臨床現場で行われている嚥下リハビリテーションには口腔ケアや嚥下体操、マッサージなど様々なものがありますが、残念ながら全ての方に高い効果をもたらす手法は見つかっていないのが現状です。これまでに考案されたリハビリテーションの多くは、飲み込むための嚥下筋を鍛えるトレーニングにとどまっています。しかし本来は、脳が嚥下運動を指令する機能や、飲み込むタイミングを捉える感覚を回復させなければならないのです。私たちはその点に着目し、司令塔である脳と、実際に飲み込みを行う喉の機能をしっかりとリンクさせる仕組みを作ろうと考えました。
脳卒中による嚥下障害を持つ患者は、脳の運動意図出力機能と、口腔・咽頭感覚の受容機能の両者の低下が予想される。そのため末梢への刺激だけでは改善が難しく、脳と末梢機関のネットワークを再構築することが嚥下機能回復の鍵となる