男性更年期障害の予防対策のためのウェアラブルシステムの社会実装
井手 久満 先生

順天堂大学 大学院 医学研究科 泌尿器科学 主任教授

WellAgeがユーザーの不調を検知した場合、どのようなサポートを想定されていますか。

将来的には、医療従事者(医師・看護師・栄養士など)からユーザーへ直接アドバイスを届けられる「双方向のサポートシステム」を目指しています。

膨大な過去データをもとにAIが更年期障害の発症リスクを判断し、本人に自覚症状がない段階でも通知を行います。そのアラートを医師や看護師が確認して、オンライン通話などで「調子はいかがですか? ストレスが溜まっていませんか?」などとアプローチすることで、最適なタイミングでの早期介入が可能になります。

「少し運動を取り入れましょう」「しっかり休みを取ってくださいね」などのアドバイスを受けて、実際に行動に移すかはユーザー個人の判断になりますが、「気づき」をもらえるだけでも大きな意味があります。また「一度、産業医に相談してみては」と促すことで、深層にある体調不良の解明につながるケースもあるでしょう。

更年期障害の予防対策のためのウェアラブルシステムの社会実装のイメージ。AI解析をもとに、発症リスクの高いユーザーをピックアップして医師や看護師につなげる、包括的な支援システムを目指す

このシステムは女性でも使えますか。

はい、もちろんです。アプリ内には女性特有の更年期症状やQOL(生活の質)を評価する質問票も盛り込んでいます。男性・女性を問わず、重症化する前に対策を打てる環境を整えることが重要と考えています。

今回は更年期障害をメインターゲットとして研究を進めていますが、WellAgeは「うつ」をはじめとする多様な病態に応用できる汎用性の高いシステムです。ぜひ多くの方に活用していただきたいです。

今後はどのようなステップを通じて、このシステムを医療現場やより多くのユーザーへ届けていかれるご予定ですか。

ようやくシステムの基盤が完成しましたので、今後は研究成果の実用化を加速してまいります。そのために、国際学会での発表などを通じて広く発信を行い、世界レベルで認知度を高めることにも力を入れています。

近年、企業の健康経営(従業員の健康管理を経営的な視点で捉え、実践すること)においても男性の更年期ケアへの関心が高まっており、すでに複数の大手企業と連携して従業員向けアプリの導入検討を進めています。ほかにも、例えば生命保険の付帯サービスや、特定保健指導のプログラムの中に組み込むなど、さまざまな活用形態を想定しています。

ただ、現在のデータベースは前立腺がん患者さんなどの限られた症例が中心となっており、これを一般化するには何千人・何万人という大規模な検証が必要です。今後は大規模研究を経て社会実装を進め、その成果をさらに評価・改善していくというプロセスをしっかりと踏んでいきたいと考えています。

最後に、セコム科学技術振興財団の研究助成を受けたご感想をお聞かせください。

研究資金の使途に関する自由度が高く、試薬の購入やシステムの開発費、そして人件費まで、本当に必要な用途に充てることができました。現場の裁量に寄り添っていただけたことに、心より感謝申し上げます。

おかげさまでシステム開発を着実に推進でき、当初の目標を超える研究成果が得られました。この取り組みを通じて、更年期障害における性差研究をいっそう深めるとともに、社会実装に直結する成果を生み出し、医療と産業の双方で幅広く活用できる仕組みを確立したいと考えています。

所属するメンズヘルス学会では、毎年11月19日の「国際男性デー」に合わせた市民公開講座やメディア発信などを通じて、男性更年期障害の啓発にも積極的に取り組んでいる

WellAgeが多くの方に届き、更年期障害の早期発見・予防につながる未来を期待しております。お忙しいなかインタビューにご対応いただき、ありがとうございました。